「どうぞ」
舞が皿に盛ったお寿司を隆人に差し出した。
隆人は礼を言いながら舞の顔を間近ではっきりと見た。
雅との違いを見つけようとしたのだがどこにも見あたらない。
本当にこれは雅なのではないのか。
自分は夢を見ているのではないだろうか。
雅なら今三十のはず。
強いて言えば舞はもう少し若く見えるが、女の歳など化粧一つですぐにわからなくなる。
舞の口から出る流ちょうな土佐弁が不思議でたまらなかった。
舞が慎也の方にお寿司の皿を差し出した。
慎也は舞にちょっと会釈をしただけで、また、年配者らとの歓談を続ける。
慎也はこんなにも雅と似た女を前にしてどう思っているのだろうか。
舞という女を他人のそら似だと思っているだけなのだろうか。
隆人は昨夜橋の上で慎也が突然笑い声をあげたことがずっと気になっていた。
慎也が自殺未遂まで起こしたあの頃に逆戻りするのではないかという不安に駆られたからだ。
隆人は安田川でこんな予期せぬことが起こるとは夢にも思わなかったと、コップ酒を一気にあおった。
とにかく舞が雅ではないことを自分がしっかりと確認して、慎也に認識させる必要がある。
隆人は繰り返される献杯の最中で、舞と話をする機会を伺った。
宴はますます盛り上がる。
酔った老人がよさこい節を歌い始め、皆の手拍子が鳴り始めた時だった。
舞の兄が急に立ち上がって甲高い声を上げる。
「おんしゃあらあ(お前達)、何しに来たがなやっ」
よさこい節が止まった。
舞の兄が指さす方に目をやると暗闇の奥に二人の男が立って近づいてくる。
一人は小柄でがっしりとした体躯、もう一人はとてつもなく上背のある相撲取りほどの大男だ。
「純太と銀治か」
中村はコップ酒を傍らに置くとポッカリと浮かぶ月を仰いだ。