まいどー! 有田川ダム上の柴崎おとり店です(^^)/

和歌山県有田川ダム上にある柴崎おとり店のサイトです。 鮎釣りの遊漁券とオトリ鮎を販売しております。 鮎釣りの皆さんお気軽にお越しください(*‘ω‘ *) 柴崎おとり店 〒643-0601 和歌山県有田川町押手770-2 ☎073-726-0413

    有田川ダム上の水況などetc.


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    鮎釣り

    「よくご存じで。中村からは連載の鮎百河川を見てぜひとも安田川に高瀬名人に来てほしいとの連絡があったんです」

    「いやー、あのポン酢醤油は美味しいですわ。うちの家族も大好きで鮎の素焼きにかけても最高やし。行きたいなー」

     横で慎也もにっこりと頷く。


    「で、どのくらい上がってます?」

     慎也が鮎の釣果を訊いた


    「はい。だいたい二十から三十です。ただ、先週馬路地区で八十一匹上げた人がいるそうです」

    「へぇ、そら多めに言ったとしても、すごい数やないかい

     と隆人が目を丸くする。


    群れ鮎がいるのですか?

     釣果の話になると慎也の顔が引き締まった


    いえ、近畿の鮎のように群れてはいません。安田川は下流域は天然遡上主体ですが上流の馬路地区は放流魚です。湖産系はもう釣りきられてしまって追いの渋い海産系ばかりなのですが、中村の話によるとその人だけが特別だと言ってます」


    「へぇ、つまり腕ってことですかい」

     隆人は自分の腕をポンポンと叩いた。


    「八十一匹は凄いですね」

     と慎也は腕組みをした。


    「えぇ、中村の話ではその人だけちょっと釣り方が変わってるらしくて

    「どんな風にですか?」


    「泳がせ釣りの一種みたいで、私も詳しいことは分かりませんが、どんな荒瀬でも囮鮎を巧みに上流に登らせるらしいんです」

    「超極細糸でしょうか?」


    「はい、それがフロロの〇.四とのことで」

     久米の言葉に慎也の眉がぴくりと動く。


    「それは糸が太過ぎる。そこまで言ったら嘘になるでぇ」

     隆人は笑いながら慎也と久米の会話に口を挟んだ。

     

    「それで中村のいう話では、地元でずば抜けて上手なその人と高瀬名人が対決したら一体どちらが勝つのだろうと、村の鮎釣り師たちの間ではいつか鮎百河川が安田川に来たらぜひ二人に鮎釣りで特別試合を組んでほしいと、いや、そこまではっきりとは言いませんがそんなニュアンスで中村はぜひとも二人で釣りをしてほしいと言っております」

     久米は言いにくそうに語尾を濁した。


    「おい久米さん、そりゃああんたが雑誌の売り上げを伸ばすために考えたことだろうよ。そんなことやったらメーカーが黙っちゃいないよ」

     と隆人は口を尖らせた。慎也はじっと黙ったままだ。


    「慎也、そんな企画受けることはできんぞ。もし万が一負けでもしたらメーカーの看板に傷がつくってもんだろう」

     隆人が語気を強める。


    「俺が負けるって?」

     慎也は口元を少し緩めたようにも見えた。


    「い、いゃ万が一だよ。何事にも万が一ってことがあるだろうが慎也」

     隆人が弱い目を慎也に返す。


    「わかりました。その企画お受けいたしましょう」

     慎也は腕をほどくとしっかりと久米に目を合わせた。


    「お、おいちょっと待てや。そんなこと」

     隆人が目を丸くして慌てる。


    「あ、ありがとうございます。すぐ、雑誌社の方に連絡を取って準備に取りかかります」

     久米の言葉に慎也はこっくり頷いた。


    「し、試合はさせへんし、仮にそんなことしてもそこだけはぜったい記事にすんな、ええかっ」

     隆人の言葉を聞き流すように久米は立ち上がると、部屋の外に出て電話を始めた。


     隆人はショルダーバックから手帳を取り出すと、ぶつぶつ言いながら忙しくページをめくった。

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     隆人は公務員試験には受からずそのまま叔父の宅配会社で働きながらも、いつの間にか慎也のマネージャーとしての仕事の方が忙しくなっていた。

     慎也が四連覇を達成した年、釣り雑誌「スーパーアングラー」がある企画を持ち掛ける。

     それは「鮎釣り百河川の旅」として全国の鮎釣り河川を紹介するものだ。

     鮎釣り師なら願ってもない話なので慎也が快諾をするのは当たり前なのかもしれないが、隆人には少し心配なことがあった。
     慎也の鈴木雅へのこだわりである。

     全国行脚は雅を探す旅ではないのか。
     隆人は従妹の真紀のことも気がかりになっていた。

     真紀が慎也に想いを寄せていることは慎也自身も知っているはずだ。
     隆人は慎也が真紀と一緒になってくれることを願っていた。

     真紀はこの年頃になっても他の男の誰にも気を許さない。

     慎也が真紀のことをどう思っているのかわからないが、精神疾患のまだ完全に治りきっていない慎也にそのような話で踏み込むことなどとてもできなかった。

     隆人はそんな複雑な思いで「鮎釣り百河川の旅」の企画書に目を落とした。

     その年の秋から「鮎釣り百河川の旅」はスタートする。
     取材は順調に進んで人気企画として三年が過ぎた。
     
     この間も連覇を続ける慎也は、かつての荒川名人が打ち立てた全国大会七連覇の偉業に並んだ。
     来年優勝すると新記録となる。

     そしてその年、「鮎釣り百河川の旅」は四国へと舞台を移すことになった。

    「日本一美味しい鮎を食べに行きませんか」
     釣り雑誌スーパーアングラーの担当者である久米は四国の地図を広げた。

    「四国っていったら四万十川とか吉野川は知っていますが、その安田川とやらはいったいどこにあるんですか」
     と、マネージャーの隆人が地図に目を落とす。

    「四万十川の反対側で室戸岬の方です。小さな隠れ川ですがダムが無く水もきれいで四万十とはまた違った魅力のある川です。その川の鮎が昨年初めて行われた全国利き鮎大会で日本一になったんですよ」

    「へぇ、そら食べてみたいなぁ」
     隆人は目を細めた。

    「私の大学時代の中村という友人が、この安田川の流れる馬路村という小さな村で農協の課長をしておりまして」

    「あっ、あのポン酢醤油の馬路村かぁ」
     隆人が顔を上げると久米はにっこりと頷いた。
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    【ちょっとひとり言】

     小説「安田川」は20年ほど前に書いた小説ですが
     ぼちぼち加筆修正しながら掲載しています。

     ある公募に入賞して出版社から共同出版を出版社7割でしないかと持ち掛けられた作品です。
     出版社の社員が自宅にまで来た時には驚きました。

     が、印税を計算すると2万部売れなくてはペイできなくて断念しました。
     なによりその時は副業収入はできませんでしたので、著作権を自分で持っておいて退職したときにでもどうするか考えようと置いていた拙作です。

     実は今回別の目的もあってブログを立ち上げ掲載をはじめました。
     それはグーグルアドセンスの承認を得ようとしたのです。
     もう一つのエッセイブログもそうです。

     が、なんとグーグルアドセンスの審査はここ数か月前から突然厳しくなっており独自ドメインでなければ申請すらできなくなっています。
     それまではホイホイと合格できたのに残念です。

     ま、そんな邪心は捨ててボケ防止もかねて小説安田川を続けたいと思います。
     この間鮎釣りの道具もずいぶん変化したのでそんなことも考えながらの書き直しをしてみます。

     ひょっとしたら後半、大きくストーリーが変わるかもしれません。
     自分でも楽しみながら進めてみますので、お時間のある方は読んでいただき
     あそこはこーしろ、ここはこう書け、あれはちがうとかの叱咤ご指導をいただければ幸いに存じます。

                                                                                                                                        by がばちゃ

     二人はまた休みごとに鮎釣りへと通い始めた。

     慎也が天才鮎釣り師に戻るまでに時間はかからなかった。が、慎也は以前の慎也に完全に戻ったわけではなかった。


     あの出来事以来、慎也は極端に口数の少ない男になってしまった。

     慎也が自分から口を開くことはまずない。


     隆人は慎也に対しどんな話題がタブーであるかわかっている。

     長い時間がかかっても必ず元の慎也に戻ってくれることを信じた。


     慎也の自殺未遂から三年目の夏、隆人は慎也を以前優勝した釣り具メーカーの近畿地区大会に出場させた。

     隆人自身は出場しなかったが慎也の出場手続や段取りを全て行った。


     点呼で高瀬慎也の名前が読み上げられると、参加者たちからどよめきが起こった。

     鮎釣り界を賑わせた高瀬慎也の名は全く色褪せていな


     試合が始まると慎也は猛烈に釣った。完璧なカムバックだ。

     二位以下に圧倒的な差をつけての優勝だった。


     一月後、岐阜の馬瀬川で全国大会が行われ慎也はあっさりと優勝する

     以降、慎也の全国大会連覇が続くことになった。


     連覇を重ねるうち、慎也はある鮎釣具メーカーを代表する専属プロとなった。

     長身でスリムな体躯に俳優並みの甘いマスク。


     慎也の人気は鮎釣り界にとどまらず、最近ではテレビのクイズ番組や釣り映画への出演依頼などもきている。

     いつしか隆人は慎也のマネージャーのようになっていた。


     一方、慎也は鮎釣り姿になると甘いマスクとは裏腹な険しい形相に変わった。


    高瀬慎也の釣りは身の毛のよだつ釣り方や。あいつには何かが乗り移ってるで」

     慎也は鮎釣り関係者から「関西の鮎鬼(ねんき)」と呼ばれるようになっていた。

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     隆人は自分の責任を感じていた。

     雅は気の多い女だったのだ。


     そのことは釣具店の若い店員からも聞いたことがあったし、彼女が何度か違う男と歩いているところを見かけたこともあ

     慎也に早い段階で忠告しておくべきだった。


     慎也は建設会社を辞め寮を出た。

     田舎に帰っても祖父母に迷惑をかけるので、と言いいながらも行く当てなどあるはずもない。


     隆人は叔父に頼みこんで慎也を宅配会社に入れてもらうことにした。

     ただ、会社には入っても慎也は働けない。


     離れの一階を自分の部屋にしてその二階に慎也を住まわせる。

     そこで療養生活をさせるのが目的だ。

     


     慎也に処方された薬は、第三者が管理しなければならないほどに強い薬だった。


     慎也療養生活は他人から見ればただの引きこもりで、時折訪れる叔父夫婦も困り果てていた。


     隆人はいわゆる監視役で、慎也に毎日決まった量だけの薬を飲ませることと、規則正しい生活をさせることに努めた。


     が、隆人も仕事をしなければならず限界はある。


     そんな時は叔父の一人娘真紀に頼んだ。

     真紀はいつも慎也の事を気にかけている。


    「慎也さんちゃんとお食事はとったのかしら」

    「置いていたおにぎりが無いから食べたんとちやうか。ワイ今から配達があるからなんかあったら電話してくれや」


    「うん、私このおいしそうなパン食べへんか慎也さんにもう一度声掛けてみるわ」

     そんなやり取り叔父はいつも顔を曇らせて見ていた。

     真紀が慎也に好意を持っていることは誰の目にも明らかだ。

     

     叔父は真紀の行動を咎めることもあったが、真紀は言うことをきかなかった。

     そんな甲斐あって慎也の症状は徐々に回復をしてきた。


     二年が過ぎた夏、隆人は思い切って慎也鮎釣りに誘う。

     慎也も首を縦に振った。


     二人は埃をかぶった釣り竿などの道具を手入れ、有田川へと向かった。


     慎也が有田川に浸かって竿をかまえた瞬間、隆人の目から涙がこぼれ落ちた。

     川で顔を洗ってごまかしたがしばらくその止まらなかった。

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     慎也は日に日に痩せ細り、仕事も鮎釣りも手につかなくなった。


    「オレもう駄目かもしれん・・・・・・」

     電話の向こうで慎也の弱々しい声が隆人に届いた

     すぐに大学病院の看護士が電話を替わる。


     看護士の話では、慎也はナツメグを大量に摂取して自殺を図り病院に搬送されたと言うことだ。


     隆人は直ぐに病院に向かった。


     病室には医師と看護士の他に会社の寮のおばさんがいた。

     慎也は眠ったままだ。

     隆人は寮のおばさんに事情を聞いた。


    「幻聴が聞こえる言うて洗面所ですごく吐いてな」


    「最近なんか変わったこと無かったですか?」

     隆人の問いにおばさんは思い出す表情で首を捻った。


    「さして変わったことは無かったけど、二、三日前に若い女の人から電話があったぐらいかなあ。夜の八時頃やったわ。先月ぐらいまでは毎晩かかってきよったけど最近は全然掛かってきていなくて久しぶりの電話やったわ。前かけてきてた人と同じ人の声やったと思うけど

     雅に違いない。

     その電話の内容が慎也にこれほどまでのダメージを与えたのだ。

     いったい雅は慎也に何を言ったのだろう。


     医師は隆人を部屋の外に誘った。


    「本人が、どうしても杉原さんに電話をしてくれと携帯を差し出すもんですから」

     隆人は慎也の境遇について医師に話をした


    「そうですか。まあ命に別状はありませんが、未だ脈拍が通常の二倍あり、まれに脳障害が残る場合もあります。本人が言った量が本当なら中毒症状は明日にでも直るはずです。とにかく、これが直っても一度心療内科の方に来られた方が良いと思います」


    「心療内科?」

     隆人は聞き慣れない言葉に首をひねった。


    「ええ、慎也さんは精神的にお疲れになっていらっしゃるようですから一度心療内科の方で診てもらった方がいいと思います」


    「先生、まさか慎也の奴・・・・・・」

    「とにかく診てもらった方が良いと思います」

     医者の言うとおりに慎也の中毒症状は翌日には収まった。

     慎也はその後、精神疾患で一年近くも通院生活を送らなければならないことになる。 

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