僕はひたすらその動作を繰り返した。
三十分ほど経った時にオトリのスピードが突然グーっと早まった。
瞬間水中でギラリと魚体が返った。
目印が横に走って竿がしなる。
掛かった!
僕は一人で声を上げて夢中になった。
こんなに気持ちのよい掛かり方は今までに経験がない。
同じことを一日中繰り返した。
この日、僕は初めて十匹の釣果を得た。
嬉しくて周囲の釣り人に釣果を訊いてほしかった。
みんなベテランで十匹など少ない釣果なのかもしれない。
でも僕にとっては天にも舞い上がるほど嬉しいことだった。
翌日オトリ店に釣果を報告した。
オトリ店の話では、昨日は掛かりが渋くみんな十匹から二十匹の間ぐらいだったそうだ。
僕は胸を張ってまたその釣り場へと向かった。
鮎釣りが面白くて仕方なく好きで好きでたまらなくなっていた。
小さな川なので時には子供を連れて行って水浴びをさせながら釣った。
家内は一人で自由を楽しむ時間ができるのか帰宅するといつも機嫌がよかった。
大喧嘩で始めた鮎釣りなのに、いつの間にか家庭を穏やかにするものになろうとは夢にも思わなかった。