小市民のイージーライフ

日常生活の様々な話題を綴るブログですがしばらくは小説を書いてみます。

    鮎釣り

    今シーズンは解禁からオーナーのベストを着ていたのですが
    洗濯のために昨日は古いダイワのベストを着て釣りました。

    正直、新しいオーナーのベストより機能的にも着心地的にもダイワの古いベストの方が個人的には優れていると思います。
    IMG_20200622_090730

    オーナーのベストはポケットがベスト表面とフラットで飛び出ていないので窮屈なのです。

    極細ラインが引っかからないようにということみたいですが
    そんな経験は個人的にはあんまりないんだけどなぁ。
    IMG_20200622_085933

    その点においてダイワのはちゃんとポッケが飛び出ています。
    IMG_20200622_085951

    じゃあなぜオーナーのベストを買ったのか?
    と訊かれると

    赤いベストや黒いベストは蜂に敵とみなされるからと聞いたので・・・
    なんでも蜂の天敵は熊なので熊は黒いので蜂は黒を敵とみなすらしいのです。

    一方、白は蜂には見えないとのことで、ステルス戦闘機みたいな白いベストが夏場のいきり立った蜂の季節にはイイのかなと思って買いました。

    で、なんでオーナーかというとカタログで見た時にはかっこよく見えたのです。
    でも、よく考えたら河原でおっさんが格好つけても仕方ないですね。

    モテたい願望の燃えカスがまだ潜在的にどこかに残っていたのでしょうか。
    もっかい滝に打たれてこようー( ゚Д゚)
    IMG_20200622_090704



     釣り始めると早速一匹目が掛かった。
     僕は得意げに上流に目をやった。

     と、上流は二人とも竿が曲がっている。
     あそこも釣れる場所なんだな、と思って気にしながらオトリを泳がせた。

     ところが二匹目以降が全然掛からない。
     上流は若者が掛かる度に「よしきたーっ」と大声を上げている。

     その声が止まない。
     ずっと掛かり続けている。

     声の回数だけ掛かったとしたら三十匹は軽くい超えているだろう。
     信じがたい出来事だった。

    「あー、釣りすぎて疲れたわ。一休みしよう」
     と若者は、わざと僕らに聞こえるように声を発しているようだった。

     僕らは、全く釣れないところを彼らに見られることになった。
     嫌な状況である。

     たまらず祖父に場所変えを提案した。
     と、若者が「お、そこ止めんの」と馬鹿にしたような口調で寄ってきた。

     僕も祖父も憮然と口をゆがめ、「よかったらどうぞ」とだけ言って帰り支度を始めた。  

     目の前に若者は即座に入って釣り始めた。

     いきなり竿が曲がると立て続けに連続で鮎を釣り上げた。
     「よー掛かるわ。ははは」
     と若者は声を上げる。

     屈辱的な場面に僕は唇をかんだ。
     腹立たしくもあったがいったい釣り方のどこに違いがあるのかを考えもした。
     釣り方に変わりはなさそうだし、ポイントの見方も同じである。

     後あるとしたら仕掛けの違いだけなのかなと思った。  

     後日そのことを釣り友人に話してみた。
     友達は、それは最近出た金属製の糸を使っているのではないのか、と言った。
    050

     僕は泳がせ釣りを完全に自分のものにしたいと和歌山の河川で練習した。

     主には有田川と日高川だ。


     三年ほど経つと釣果が二十匹を超す日もあった。

     これまでの自分は、マラソンにしても勉強にしてもある程度のところまでいったらそこで停滞してしまうのがおきまりのパターンだった。

     鮎釣りもそのような時期に差し掛かっているのだと自分でも思った


     盛夏、そのような気持ちをこっぱ微塵に打ち砕く出来事が起こった。


     忘れもしない八月のお盆休みのことである。

     久しぶりに高知に帰郷し祖父と一緒に竿を出した。


     祖父は車の運転ができないのでいつも家の下の河原で竿をだすのだが、たまには違う場所に連れて行ってあげようと祖父を別の場所に誘ったところ、祖父も久しぶりに下流に行ってみたいと賛同した。


     二人で下流へと釣り場を探して回った。

     下流は町の方からたくさんの釣り人が来て賑わっていた。


     入る場所がなかなか見つからなかったが、何とか竿が出せそうな瀬に祖父と下りた。

     瀬の上手では二人の釣り人が竿を出していた。


     僕と祖父は先行者のじゃまにならないようにと瀬の下手に竿を伸ばした

     しばらくすると僕のところに上流で釣っていた若い釣り人が下りてきた。


    「あんたな、今から人が釣り下ろうとしているのにそこに入いんなよな」

     と顎を突き出しての剣幕だ。


     僕はとっさにすいませんと謝った。

     が、祖父が「川はおまえだけのもんかっ」と大声を上げて反駁した


     騒ぎに気づいた上流のもう一人の釣り人も下りてきた。

     こちらは落ち着いた年配者だった。


     どうやら顎を突き出した者の知り合いのようだ。

    「おまえの気持ちもわからんでもないが、今日はみんな休みで釣りたいんや。お祖父さんの言われるとおり川はみんなのものや。今日はこの瀬で四人仲良く釣ろうで」

     年配の言葉に若者はしぶしぶ口をつぐんだ。


     祖父も荒い息を徐々に収めた。

     ただ、上に引き上げる時の若者の一言がしゃくに障った。


    「まぁ、影響は無いわ」と鼻で笑ったのだ。

     つまり、僕ら二人が居ても自分たちの釣果に影響は無いとの意味に違いなかった。


     その二人は格好が違った。

     最新のタイツやベストで竿もみるからに高価なものを持っていた。


     一方こちらは古めかしい格好だ

     祖父に至ってはジャージと三度笠のような様相である。


     僕は内心なにくそっと思った。

     泳がせ釣りでバンバン掛けて一泡吹かせてやるぞ、と竿を持つ手に力を入れた。

    027


     翌年の春に加藤さんは退職をした。

     そして数年後、加藤さんと再会する機会があった。


     加藤さんは年老いて小さくなったように感じられたが、グリッと開いた目は昔のままだった。

     僕は加藤さんに有田川で釣った鮎を持って行った。


    「今晩うちに泊まっていけ。おまはんにちょっと話したいことがあるんやしょ」

     と加藤さんは僕の手を引いた。

     表情が少し暗かったのが気になったが、僕は突然泊まれと言われてもなあ、と遠慮してまた来るからと断った。


    「じゃあちょっと待っとけ」

     家の裏に消えて行った加藤さんは、鮎釣りベストを下げて戻ってきた。


    「これ買ったんやけど足が悪うなって鮎釣りでけんようになったから、おまはんにやる。今度これ着て船戸橋の下で釣れ」

     と言われた。


    わかりましたよ。加藤さんの代わりにバンバン釣らせてもらいます」

     そう言うと加藤さんは顔をくしゃくしゃにして喜んだ。


     なのに良く釣れる有田川の方に通い詰めて紀ノ川にはつい行きそびれてしまった。


     その年の晩秋、加藤さんに鮎を持って行ったら寝たきりになっていた。

     僕がそばに寄ると目を向けて何か言うが、何を言っているのか分からない。


     加藤さんは直ぐにまた寝たような感じになった。

     意識が戻ってあんたのことわかったみたいやして、と奥さんが声を詰まらせた。


     加藤さんは僕に何を話したかったのだろう。

     ひと月が経ち、加藤さんは帰らぬ人となった。


     鮎ももう掛からなくなった肌寒い日、加藤さんからもらった鮎ベストを着て船戸橋の下で竿を出す釣りバカを、橋上から何人かが笑いながら眺めていた。


     約束は守るから約束であって守れなければ約束とはいえない。

     僕はせめて一匹でもと鮎竿を繰り続けた

    003

     できあがった鮎とズガニが、川岸に集まった職場の家族連れらに振る舞われた。

     うまい! 僕らは舌鼓を打った。


     晴天の下で冷え切ったビールが喉を鳴らす。

     加藤さんはそんなみんなを眺めながら目を細めて冷酒をあおっていた。

     

     少し酔った加藤さんが「お前弟子や。手伝え」と僕を指名してタテ網の片方を持たせた。

    「今からこの前で鮎を獲りますので皆さん見ていてください

     と加藤さんがみんなに言うと歓声が上がった。


     僕は加藤さんに言われるがままに紀ノ川に入っていった。

     指示どおり僕は対岸に渡るとタテ網を持ったまま上流に石を投げ続けた。


     肩が痛くなったがみんなが声援をとばすのでやめられない。

     やっと網の引き上げとなって岸に戻ると、まるまるとした鮎が何匹も掛かっていた。

     

     その一匹を取り外した加藤さんは人差し指で鮎の腹を割って内臓を取り出し、梅干しをつぶした梅肉を内臓のところに詰め込んだ。


    「これが紀ノ川の通の食べ方やして。お前そのままかじれっ」

     と加藤さんが言った。


     僕が躊躇するとみんなからまた歓声が飛ぶ。

     僕はしかめっ面で鮎にかぶりついた。


     正直まずくて吐き出しそうだったが、ますますみんなが喜ぶので我慢して最後まで食べた。

    「ん、お前は若いけどなかなか素質がある」

     と加藤さんは冷酒を美味しそうにあおって目を細めた

     何の素質なのだろうかと思いながら、僕もやけくそで冷酒をあおった。

    IMG_0531

    このページのトップヘ