まいどー! 有田川ダム上の柴崎おとり店です(^^)/

和歌山県有田川ダム上にある柴崎おとり店のサイトです。 鮎釣りの遊漁券とオトリ鮎を販売しております。 鮎釣りの皆さんお気軽にお越しください(*‘ω‘ *) 柴崎おとり店 〒643-0601 和歌山県有田川町押手770-2 ☎073-726-0413

    有田川ダム上の水況などetc.


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    鮎釣り

    「夜遅うにすまんがです。あたし清岡舞の叔母の南清子いうがです」

    「は、はあ。何か?」


    「言うか言うまいか悩んでるうちにこんな時間になりまして。杉原さんだけに相談があるがです」

    「ええ、何でしょうか?」

     隆人は何度も首を傾げた。

     清子は昨夜舞から聞いた一部始終を隆人に話をした。


    「そ、それほんまですか。まだ、馬路に来て二日目やのに、信じられんわ」

     隆人は大声を出して驚いた。


    「ほんまながです。あたしも舞からその話を聞いて驚いたがです。きっと高瀬さんは、舞のことをその鈴木雅やとかいう人やと思いこんじゅうがやと思いますきに。舞は鈴木雅やいう人とは全くの別人ながです。ただの他人のそら似ながです」

    「あ、あいつ、まさか・・・・・・」


    「とにかく、舞は高瀬さんが勝ったら和歌山に行く言うがです。それを高瀬さんも望んでいるはずだと舞は言い張るがです。けんどなんぼいうたち舞はその鈴木雅いう人とは別人やし、そんな二人が一緒になって幸せになれるわけなんかないがですきに。あたしはこの村で舞を純太と結婚させちゃりたいがです。純太も舞のことを好きながです。あたしは舞に幸せになってほしいがです。杉原さん頼みますきになんとかしてください

     清子は半泣きだ。


    慎也が舞を和歌山に連れて帰えるってぇ

     杉原は眉間に皺を寄せて腕組みした。


    「杉原さん、卑怯かもしれんけど明日の試合でなんとか高瀬さんを負けさせる方法は無いがでしょうか。姪の一生がかかっちゅうがですきに頼みます」

    「・・・・・・・・」

     詰め寄って懇願する清子を前に隆人は返答に窮した。


     宿に戻ってからも隆人はなかなか寝付けない。


     慎也が部屋に戻ってきたのは十時過ぎのことだった

     隆人はどうしていいのか分からず寝たふりをした。

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     翌日、馬路は昼まで激しい雷雨だった。


    「こりゃようけ川の水が出た。明日の試合は無理やな」

     隆人は慎也に言い聞かせるように増水した川を見た。


    「この川はダムがないので水の出るのも早いけど引くのも早いらしいですよ」

     久米が原稿を書く手を止めて川を覗き込みながら言った


    「お前、商業主義に走っとんちがうやろなぁ。明日の試合のことなんか絶対書くなよ」

    「と、とんでもないです

     隆人が凄むと、久米は慌てて座り直した。

     慎也は窓を開けて川をじっと見つめている。


    「なぁ慎也、考え直せよ。昨夜は酒に酔っていて少し冗談が過ぎたと言えば今からでも何とかなるないか。だいたいお前にとって何のメリットも無い試合やで。まぁお前が負けることは考えられんけどな。何事にも万が一ってことがある。万が一負けでもしてみろや。鮎釣りの神様高瀬慎也の名が落ちるだけやない。お前はメーカーの看板やこれからの仕事にも影響するかもしれへんのやで」

     慎也は川を見たまま口元を緩めた。


     一匹でも鮎を多く釣り上げる腕達者なプロに消費者の心は動き時めく。

     そのプロが使う鮎竿やヒキブネ、あるいは仕掛けなどは飛ぶように売れるのである。


     そのプロが片田舎の名も知れぬ一介の釣り人に負けたとあっては、製品への売れ行きに影響が及ぶことは必至だ。

     万が一そんなことでもあったら大変なことになる、と隆人は口を歪めて暢気に構える慎也を横目で見た。


     晩の七時過ぎに隆人に清子から電話があった。


     清子は河原の宴の時横にいた者ですと言うが、隆人ははっきりとは思い出せない。

     清子は今から相談があるので会ってほしいと言う。


     慎也もか、と訊くと隆人だけでいいという。


     何の相談かと訊いても、清子はとにかく会ってから話すとだけしか言わない。


     ちょうど慎也は風呂に行ったきり帰ってこない。


     しかたなく隆人は清子のせっぱ詰まった様子に引っ張り出されるように、役場へと続く吊り橋のたもとへと出向いた。


     吊り橋の向こう側に中年の女性がエプロン姿のまま一人で夜間灯の下に立ってい

     隆人の姿に気が付くと女性は腰を折って一礼をした。

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    あたし、その高瀬さんから大阪の連絡先と住所渡されたが」

    「あ、あんたまさか」

     清子は暗闇で舞の目を探した。


    「あたし、高瀬さんが勝ったら大阪に行くことに決めたが。親が反対しても絶対行くがに決めたがよ。あの人はこの村が気に入ったからこの村に住む言うたけんど、そうなったら村には住めんき。あたしは村を出ていくが」

    「ま、舞ちゃん。あんた、気でも狂うたかね」


    「まだ狂うちゃあせんが。でも、狂いそうなが。雅と一緒ながよ。自分でもわからんなったこの気持ちを・・・・・・あたし、明後日の試合の結果に委ねてみたいと思うたが。自分の運命として

     舞の語気の強さに清子は怯んだ。

     一、二歩よろけると、それ以上の言葉を発することが出来なくなってしまった。


     昨夜、暗い河原で慎也は舞に詰め寄った。


     舞は川岸に蔓延ったアケビの葛に足を取られバランスを崩した。


     慎也と舞は縺れ合って、まだ昼間の熱の残る暖かな砂地に転んだ。

     だが、二人が直ぐに起きあがることはなかった。


     その時、どれほどの時間が経ったのか舞には分からなかった。


     ふと、河原に降りてくる男の声に気付いた舞は乱れ髪を手櫛で解いて上半身を起こした


     二人連れの男月の隠れた暗闇の河原に降り立ったのが見えた


     慎也と舞に気付いた男は、向こうからチラリこちらを振り向いただけで直ぐに真っ暗な川の中に入っていった。


     だが、川の中で発せられた男の一言、舞を恐怖の底に陥れた。


    「純太、ウナギの仕掛けこっちにも浸けちょけや」

     舞はその夜、明け方まで一寸も微睡むことさえできなかった。


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    「わかったわかった誰っちゃあに言わんぞね

    「昨日、あの大阪から来た高瀬さん言う人が、一寸話がある言うて食堂の片付けが終わったところへ訪ねてきたがよ」


    えっ、なんでぇ?」

    「それが、突然、鈴木雅という女性を知らんかいうたがよ。あたしびっくりして」


    「な、何で雅の事知っちゅうがぜ」

     清子は目を剥いて後ずさりをした。


    「それが、その人あたしを雅やないかって言うがよ。あたしが驚いた顔見て、よけいにそう思うたがかもしれんけんど。あたしがなんぼ違う言うても、何回もしつこく訊くが。それが、普通の訊き方やないがやき。調理場の板長らあにも声が聞こえだたきに外に出て下の河原に降りたが、そしたら俺はなんにも怒ってないとか訳のわからんこと言いだいたがよ」

    「そ、それは


    「そうながよ、あたしも思い出したが、お母ちゃんが好子おばちゃんから聞いた話を。雅が和歌山で付き合いよった男と駆け落ちまでするいうて大騒ぎになって、結局、強制的に和歌山から串本に戻されたろう。その後雅は大変なことになったじゃいか。高瀬さんいう人は、どうもその時の彼氏に違いない、いや間違いないがよ

    「そ、そんなことって」


    「雅は今はちゃんとした家庭も持って落ち着いちゅうきに、あたしは黙ったままなんちゃあよう話さんかったがよ」

    「そら、言われん。絶対言われんがよ。面倒なことになったらえらいことぞね」


    「あたしは鈴木雅らあ知らん。他人のそら似やいうて最後まで言い張った。けんど、お前は雅じゃないんか言うてしつこく訊いて、押し合いになったが。あたし・・・・・・」

     舞はたまらず声を震わせながら詰まらせた。嗚咽する舞の顔を清子はじっと覗き込んだ。


    「どいたがぞね舞ちゃん。何かあったがかね?」

    「あたし、ただ押し合いになって転んだだけやったがよ。けんどあたし、怖いが」


    「その大阪から来た高瀬っちゅう男も狂うちゅうが。明日、あて(私)が言うちゃるきに!」


    「違うが! 怖い言うたがは自分が怖いがよ」


    「な、なんて?」

     清子は拍子抜けしてよろけた。


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     十時過ぎ舞は叔母の清子と一緒に宴を引き上げた。


    「男しらあに付き合いよったら夜が明けらあね。皆ちっと飲み過ぎながよ」

     そう言って清子は坂の折り返しで立ち止まると、まだ騒がしい河原の方に目をやった。


    「いかん、月が隠れゆう。どうでもあいた(明日)は雨ながよ」

     清子の言葉に舞も足を止めて「水が出るろうかねえ」とポツリと呟いた。


    「さあよ、ようけ水が出たらさっき言いよった純太らあの試合もできんなるがよね。それでえいがやないが」

     清子はまた歩き始めた。


    「清子おばちゃん・・・・・・。あたし、話があるがよ」

     舞は今度は振り向いて清子に目を合わせた。


    「なんぞね 舞ちゃん

    「あたし、明後日の試合に純太が勝ったら純太と結婚するがに決めた」


    「ど、どいたがぞね急に」

    「あたし、純太とのことずっと悩んじょったけんど、あの試合の話が出た時にそれで自分の運命を決めろうと思うたがよ」


    「えいがかねあんたあ、そんなことで大事な一生決めても」

    「かまんがよ。幸せになれんかったらそれが私の運命ながやき。あたしも純太のことがわからんがやも」

     舞は俯いた。


    「純太は働きもんでええ子やけんど、とにかく酒飲みじゃ。酒の苦労は覚悟しちょかないかんがよ。けんど、純太は舞ちゃんのことが好きでたまらんがじゃろがね。人間、好いてくれて大事にしてくれる人と一緒になるがが一番ながぞね

    「それはわかっちゅうがよ」


    「純太はお母さんのことがあるきに、この年まで舞ちゃんにに結婚のことをはっきりよう言わんかったがやないがかね。舞ちゃんの方からもっと強引に結婚のことを言うた方がよかったがやなかったろうかねえ」

     純太は子供の頃から母子家庭で、成人してからは体の不自由な母の面倒をずっと一人でていた。


    「あたしはそんな事情も純太からはっきり言うてほしいが。なんぼいても純太は黙ってばっかりながよ。あたしやってもう疲れた。それに・・・・・・」

     舞は言葉を詰まらせた。


    「あたし、自分でどうしてえいかわからんなったがよ」

     舞は俯いた顔を横に振った。


    「どいたがぞね?」

     舞は黙ったままだ。


    「おばちゃんにだけながやで、絶対に人に言わんちょってよ」

     そう言って舞は清子のそばに身を寄せた。


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