「夜遅うにすまんがです。あたし清岡舞の叔母の南清子というがです」
「は、はあ。何か?」
「言うか言うまいか悩んでるうちにこんな時間になりまして。杉原さんだけに相談があるがです」
「ええ、何でしょうか?」
隆人は何度も首を傾げた。
清子は昨夜舞から聞いた一部始終を隆人に話をした。
「そ、それほんまですか。まだ、馬路に来て二日目やのに、信じられんわ」
隆人は大声を出して驚いた。
「ほんまながです。あたしも舞からその話を聞いて驚いたがです。きっと高瀬さんは、舞のことをその鈴木雅やとかいう人やと思いこんじゅうがやと思いますきに。舞は鈴木雅やいう人とは全くの別人ながです。ただの他人のそら似ながです」
「あ、あいつ、まさか・・・・・・」
「とにかく、舞は高瀬さんが勝ったら和歌山に行く言うがです。それを高瀬さんも望んでいるはずだと舞は言い張るがです。けんどなんぼいうたち舞はその鈴木雅いう人とは別人やし、そんな二人が一緒になっても幸せになれるわけなんかないがですきに。あたしはこの村で舞を純太と結婚させちゃりたいがです。純太も舞のことを好きながです。あたしは舞に幸せになってほしいがです。杉原さん頼みますきになんとかしてください」
清子は半泣きだ。
「慎也が舞を和歌山に連れて帰えるってぇ!」
杉原は眉間に皺を寄せて腕組みをした。
「杉原さん、卑怯かもしれんけんど明日の試合でなんとか高瀬さんを負けさせる方法は無いがでしょうか。姪の一生がかかっちゅうがですきに頼みます」
「・・・・・・・・」
詰め寄って懇願する清子を前に隆人は返答に窮した。
宿に戻ってからも隆人はなかなか寝付けない。
慎也が部屋に戻ってきたのは十時過ぎのことだった。
隆人はどうしていいのか分からずに寝たふりをした。