「隆人、俺が今でも雅にこだわっているのはそう言う理由だ。つまり俺は姉さんと父親を捜している。その事に整理を付けないと次には進めんのや。いったい自分はなにものなのか、こんな年になってもにもわかっちゃいない。どう整理をつけたらいいのかも何にもわからない。だから自分の目の前に迫ってきたものは全部振り払って前に進むしかないんや

「そ、そんなこと・・・・・・」


「想いを寄せた相手が同じ血の通った人間だったなんてもどうしていいかわからんかったんや。でも、俺は馬路で清岡舞に出会って思った。雅に似て中身は全く雅でない。こんな答えがあったのかと。俺は彼女となら一緒になれる。これは神様がくれた最高の贈り物なんや」


慎也、真紀はどないするんやっ」

「・・・・・・」

 隆人の虚を突い言葉に慎也は口をつぐんだ。


 隆人は突拍子もない話を聞かされ頭の中が混乱していたが、とにかく舞とのことだけは許せなかった。

 

 同時に、慎也が真紀と一緒になって欲しいと切望している自分にも気がついた。


 慎也を今の状況からどうしても引き戻さないといけない。

 隆人は黙る慎也にたたみかけた。


「慎也、とにかく今日の試合だけは」

 そこまで言った隆人の言葉を、慎也は声を張り上げて遮った。


「隆人、俺の閉塞感がわかるかっ! 今日まで自分がいったい何者かもわからずに生きてきた俺の気持ちが。俺の父さんはきっと素晴らしい鮎釣り師に違いない。その息子の俺がどんな試合にも負けるわけにはいかんのや。そして勝ち続けることが俺の正体を明かす道のりにもなる、幸せになれる道のりにもなる。いつか母さんがそう言ってくれたんや。だから俺はどんな試合からも逃げない。受けて立つ。徹底的に相手を叩き潰すんや」

 慎也は辛そうな表情をすると俯いて首を左右に振った。

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