酔っぱらった中村が寄ってくる。
「純太、おまんがなんぼ鮎掛けが上手いゆうたち、高瀬名人にかかったら赤児同然ながよ」
「おらぁ誰にも負けんちや」
中村の嘲るような言い回しに純太は語気を荒げた。
「これが土佐のいごっそながよ。おらぁ純太が好きぞ。ほりゃ飲め」
万作爺さんは嬉しそうに純太に酒をついだ。
舞の兄もよろけながら純太に近寄る。
「えいか、おまんがそればあ言うがやったら、高瀬名人に勝ってみいや。勝ったら何でもおまんの言うこと聞いちゃらあや」
そう言って、酔った体を二、三度揺らせると、一升瓶を握ったまま地べたに落ちるように胡座を掻いた。
「お、お兄ちゃん」
舞はそう言って唇をかんだ。
「純太、おまんやったら相手がプロでも絶対負けんがよ」
目立ての銀地が豪快に笑う。
純太は立ち上がってコップ酒を一気に飲み干した。
座は再び静まりかえり、安田川のせせらぎだけが闇から響いている。
「で、場所はどこでやるのでしょうか?」
久米が静かに訊く。
「島石ながよ」
そう言って純太は川のそばに燃え盛る焚火に薪を投げ入れた。
火の粉が暗闇に舞い上がる。
周囲から川の音を消すほどのどよめきが起こった。
「おまんらあほんまにやるがかっ。止めちょけ止めちょけ。よりによって島石らあみたいなこわいく(危険な場所)でやることないがよや」
「いや、でもあそこやったら鮎が大きいきに純太にも勝ち目があるがよや」
「あほう、全国大会十連覇のプロに純太ごときがかなうかや。寝言ばあ言うなや」
再び酔っぱらいらの喧騒が大きくなった。
宴会は二人の鮎釣り試合の話で夜更けまで延々と続いた。
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