「純太、この前平瀬でようけ掛けたらしいなぁ。万作爺さん、純太に酒注いじゃってや」

 万作爺さんと呼ばれる老人が純太に酒を注いだ。


「純太、おまんは仕事もようやる。鮎もようやる。後は嫁だけながよ」

 万作爺さんは注ぎ終えてそう言うと今度は舞のそばに腰を下ろして「舞、飲め」舞の肩にポンと手を置いた。

 舞は口元だけで笑顔をつくってコップを差し出した。


「おまん、ほっちょきほっちょき。若いもんは若いもんどうしでえいがよね」

 清子が口を挟

 純太はコップ酒を一気に飲み干すと口元を手の甲で拭った。


 座はもとの喧騒に戻りそこかしこで献杯が繰り返され


 高知の酒の飲み方は半端ではない。

 舞もコップ酒を飲み干していた。


 隣では目立ての銀治と呼ばれる巨漢が、一升瓶をラッパ飲みしてい


「目立ての銀治、おんしゃあ(お前)ちっと味おうて飲め。水じゃないがぞ」

 痩身の老人が銀治の頭をパンと張ったが、銀治は一向にお構いなしだ。


「あのぉ、目立てって何ですか?」

 久米が虚ろな目で問い返す。


「武士の刀研ぎながよ」


「はぁ、武士の刀?」


「おららあ杣夫はねや、昔は武士の刀みたいに腰にでっかい鋸をぶら下げて山を歩き回りよったがよ。目立て言うたら、その鋸の歯をヤスリで削る仕事ながよね。こいた(こいつ)の家は代々目立てなが。原木をでかい鋸で切りよった時代は、ほりゃ大事な仕事やったけんど、かわいそうに今はチェーンソーの時代になってなんちゃあ無いがよ」

 老人は寂しそうに目をしばたたかせた


「けんど今は、その目立てがおもしろいもん研ぎゆうがよ。なぁ、銀治」

 万作爺さんが銀治の肩を揉んだ。


「何を研ギユウガデスカ?」

 隆人が土佐弁を真似ねると皆がドッと笑った。


「鮎掛けバリながよ」 

 純太が答えた。


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