七月末、慎也ら一行は大阪を出発して高知県の馬路村へと向かった。
「明石の橋が出来てから四国もずいぶん近くなりました。今、左手に見えているのがジャパンフローラの花博の会場です。有名な建築家の安藤忠夫さんが設計されたそうです」
道中、久米はガイド役を勤めた。
一行は、太平洋の大海原に沿った海岸線の道を延々と進んだ。
慎也の希望で徳島の海部川に立ち寄っただけで、ほとんど休憩なしで馬路村へと急いだ。
「次の信号から入ります」
車内の時計は午後五時を指していた。
大阪を出発してからもう半日も車に揺られている。
久米の指さす方に大きな鮎のモニュメントが見えた。
鮎おどる清流安田川と書かれてある。
馬路村はここから約二十キロ上流の村だ。
山道に入る手前の橋から河口が見えた。
その遠方に濃い緑の山が幾重にも重なっている。
小さな川やなぁ、と隆人は大きな欠伸をした。
確かに小さな川だが水量は十分にある。
「ちょっと川を見ましょうか」
十五分ぐらい川を遡ったところで慎也が言った。
「向こうに見えている赤い橋で良いですか」
助手席から久米が振り向いて応える。
一行は赤い橋のたもとに車を連ねた。
車から降りて川を見下ろすと、何人かの釣り人が竿を伸ばしていた。
鮎は夕方がよく釣れる。
強い西日のせいもあってか、釣り人の中にはまだ腰まで浸かりこんで釣っている者もいた。
「おー、こら鮎がぎょうさんおるわ。これならワイでも三十匹は掛けれるで。それに、噂どおり綺麗な川やな。透明度がむっちゃ高いやんけ」
そう言って、隆人は気持ちよさそうに両腕を伸ばした。
「上流は透明度に加えて更に趣のある川相です。海部川は割合と砂地が多く平坦でしたが、ここは山から落ちた大岩がゴロゴロしています。川と言うよりはむしろ渓谷に近いと言った場所も多数あります。きっとその川相が良質の珪藻を育み、日本一美味しい鮎をつくりだしているのだと思います」
一行はまた車に乗り込み、しばらく走ると久米の言うとおりの光景が開けてきた。
川は規則的に植林された山と山の底辺を這うように流れ、夥しい大小の岩々は近畿の川に比べると全体に丸みを帯びている。
水量も思ったより豊富で、不思議なことに下流より上流に向かうほど水量が増してくる。
川底の石は茶色と言うよりはむしろ黄金色に近く、金板を敷き詰めたようにも見える。
青々と泥む大淵や、豪快に白濁する荒瀬の連続に慎也と隆人の目は釘付けになった。
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