鮎釣りでの諍いは鮎釣りの釣果で解決をするという理屈を慎也は冷静に考えていたのである。

 

 ただ、その事がわかっていても確実に相手の理不尽な行動を制止できるほどの圧倒的な釣りを見せつけられるかどうかは、よほどの技量と自信がないかぎりは行動には移せない。


 隆人は自分ではとても無理な仕業だと思った。


 川に首まで浸かって彼らを追い払った慎也の釣りは常人の域を逸している。


 これが類い希なる天性の素質なら、慎也は鮎釣りをするためにこの世に生を受けた申し子だと言ってもいいだろう。


 そのぐらいの勢いで慎也の釣りは格段に違う次元へと昇り続けていった。


 翌年、慎也は再び馬瀬川の全国大会に出場する。

 そして、並み居る名人を押さえて堂々の優勝を果たした。


 あまりにも若過ぎる覇者に鮎釣り界が騒然と


 鮎釣りの年齢層は高く、それまでの優勝者はほとんどが四十歳台だった。


 慎也は昨年とは比較にならないほどの脚光を浴びることになる


 慎也が鈴木雅という女と出会ったのはちょうどその頃だった。


 雅は和歌山市内で一番大きな釣具店に勤めており、隆人と慎也は鮎の仕掛けなどを買うためにその釣具店に頻繁に出入りしていた。


 雅はレジの担当でやがて顔見知りになる。


 隆人は慎也が雅に一目惚れをし、雅もまた同様だということを間もなく察知した。

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