高校を卒業すると、慎也は和歌山市内の建設資材を取り扱う会社に就職した。

 社員寮も完備された大きな会社だった。


 隆人は公務員試験に合格できずに就職浪人の身となり

 しばらくはそのまま叔父の家に下宿し宅配を手伝うことなった。


  同じ和歌山市内に住むようになった二人は、何時も連絡を取り合った。

 隆人は卒業と同時に運転免許を取り、夏になると二人は隆人の叔父に借りた軽四トラックに乗って、有田川奈良の吉野川兵庫の揖保川など遠方まで釣行するようになる。


 社会人になったばかりの二人は、釣り具メーカー主催の鮎釣り大会にも出るようになった。

 一年目は二人とも予選落ちしたが、二年目に慎也は近畿地区大会で三位となる。


 五位までが全国大会出場権を得ることができるため

 慎也は若干十九歳にして全国大会への出場権を得た。


 一月後、二人は軽四トラックにキャンプ道具を積み込んで、全国大会が開かれる岐阜の馬瀬川へと向かった。


「お前何の公務員になるつもりなんや」

 慎也が隆人に訊く。


「まあ無理やと思うけど国家公務員や。親父がうるさいんや。どおしても建設省に入れって。ほんま鬱陶しい親父やで」

 隆人は鼻で笑った。


「お父さん、気に掛けてくれてるんやで」

 慎也の口調が重たくなった


 隆人は気まずくなってラジオのボリュームを上げた。

 深夜放送の馬鹿笑いが車内に響く。


 二人は暫し黙り込んだ。

 

 隆人は「オレ大きいなったら一緒に探したるわ」という幼き日に自分が言った言葉を思い出していた。


 その時の様子が鮮明に浮かび上がりもどかしさが膨らむ。

 結局、慎也の父親は今日まで何の手がかりもないままなのだ。


 そして母までも逝ってしまうなんて、何故慎也だけに不幸が重なるのだろうか

 隆人は、やり場のない気持ちをどこに持って行ったらいいのかわからなかった。


 自分には慎也の気持ちをいささかも軽減するすべは見あたらない。


 自分のありふれた生い立ちや今の生活までもが、慎也の暗澹とした気持ちに拍車を掛けているような気持ちにもなってくる。


「俺な・・・・・・」

 慎也が口を開いた。


「俺お母ちゃんが死ぬ一週間ぐらい前に親父のこと聞いてみたんやけど、そしたらやっぱり未だ言えんけど、ただ俺の顔をまじまじと見ながら、お前が鮎釣りで有名になったら必ずわかるってニコニコした顔で言われたんや。その時のお母ちゃんの顔は笑っていたけど涙も滲んでいて嬉しいのか悲しいのかよくわからん顔やった


「そ、そうか」

 隆人はハンドルを強く握りしめた。

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