慎也は祖父母や先生からの説得で、何とか高校受験をすることになった。

 ただし、それは第一志望の和歌山市内の工業高校ではなかった。


 実家からバスで通える有田市内の普通高校だ。

 家計のことを気遣ったのだろう。

 和歌山市内となると下宿代など何かと経費が嵩む。


 受験の結果、隆人は志望校である和歌山市内の工業高校に合格した。

 慎也は明るい顔でおめでとうと言ってくれたが、隆人は自分の合格を素直には喜べずにいた。


 隆人は慎也とまともに視線を合わせることすら出来なかった。

 クラスの雰囲気も、慎也を気遣ってか意気が上がらない。


 慎也は、第二志望の有田市にある普通高校に合格した。

 卒業式が終わり、隆人は和歌山市内の叔父の家に下宿するために引っ越しをすることになり、慎也が荷造りの手伝いにきた。


「慎ちゃん、隆人と離れるけど帰ってきた時はまたいっしょに遊んであげてね」

「はい。夏は隆人に活きの良い囮鮎をおいときます」

 隆人の母は、ただそれだけの会話で涙ぐんだ。


 高校の三年間、二人は夏休みになると有田川で鮎釣りをした。

 二人の仲は何ら変わることはない。


 慎也は身長が急激に伸びて百八十センチを超えていた。

 一方、隆人の方は百六十センチと低かったので、「鮎釣りのデカチビコンビ」と周囲からは呼ばれていた。


 釣りの最中、隆人は思い出す毎に慎也に似た男を探した。

 背の高い釣り人を見つけるとわざわざ近寄って声を掛けたりもする。


 しかし、それらしい男に遭遇することは一度もなかった。

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