釣り始めると早速一匹目が掛かった。
 僕は得意げに上流に目をやった。

 と、上流は二人とも竿が曲がっている。
 あそこも釣れる場所なんだな、と思って気にしながらオトリを泳がせた。

 ところが二匹目以降が全然掛からない。
 上流は若者が掛かる度に「よしきたーっ」と大声を上げている。

 その声が止まない。
 ずっと掛かり続けている。

 声の回数だけ掛かったとしたら三十匹は軽くい超えているだろう。
 信じがたい出来事だった。

「あー、釣りすぎて疲れたわ。一休みしよう」
 と若者は、わざと僕らに聞こえるように声を発しているようだった。

 僕らは、全く釣れないところを彼らに見られることになった。
 嫌な状況である。

 たまらず祖父に場所変えを提案した。
 と、若者が「お、そこ止めんの」と馬鹿にしたような口調で寄ってきた。

 僕も祖父も憮然と口をゆがめ、「よかったらどうぞ」とだけ言って帰り支度を始めた。  

 目の前に若者は即座に入って釣り始めた。

 いきなり竿が曲がると立て続けに連続で鮎を釣り上げた。
 「よー掛かるわ。ははは」
 と若者は声を上げる。

 屈辱的な場面に僕は唇をかんだ。
 腹立たしくもあったがいったい釣り方のどこに違いがあるのかを考えもした。
 釣り方に変わりはなさそうだし、ポイントの見方も同じである。

 後あるとしたら仕掛けの違いだけなのかなと思った。  

 後日そのことを釣り友人に話してみた。
 友達は、それは最近出た金属製の糸を使っているのではないのか、と言った。
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