僕は泳がせ釣りを完全に自分のものにしたいと和歌山の河川で練習をした。
主には有田川と日高川だ。
三年ほど経つと釣果が二十匹を超す日もあった。
これまでの自分は、マラソンにしても勉強にしてもある程度のところまでいったらそこで停滞してしまうのがおきまりのパターンだった。
鮎釣りもそのような時期に差し掛かっているのだと自分でも思った。
盛夏、そのような気持ちをこっぱ微塵に打ち砕く出来事が起こった。
忘れもしない八月のお盆休みのことである。
久しぶりに高知に帰郷し祖父と一緒に竿を出した。
祖父は車の運転ができないのでいつも家の下の河原で竿をだすのだが、たまには違う場所に連れて行ってあげようと祖父を別の場所に誘ったところ、祖父も久しぶりに下流に行ってみたいと賛同した。
二人で下流へと釣り場を探して回った。
下流は町の方からたくさんの釣り人が来て賑わっていた。
入る場所がなかなか見つからなかったが、何とか竿が出せそうな瀬に祖父と下りた。
瀬の上手では二人の釣り人が竿を出していた。
僕と祖父は先行者のじゃまにならないようにと瀬の下手に竿を伸ばした。
しばらくすると僕のところに上流で釣っていた若い釣り人が下りてきた。
「あんたな、今から人が釣り下ろうとしているのにそこに入いんなよな」
と顎を突き出しての剣幕だ。
僕はとっさにすいませんと謝った。
が、祖父が「川はおまえだけのもんかっ」と大声を上げて反駁した。
騒ぎに気づいた上流のもう一人の釣り人も下りてきた。
こちらは落ち着いた年配者だった。
どうやら顎を突き出した者の知り合いのようだ。
「おまえの気持ちもわからんでもないが、今日はみんな休みで釣りたいんや。お祖父さんの言われるとおり川はみんなのものや。今日はこの瀬で四人仲良く釣ろうで」
年配の言葉に若者はしぶしぶ口をつぐんだ。
祖父も荒い息を徐々に収めた。
ただ、上に引き上げる時の若者の一言がしゃくに障った。
「まぁ、影響は無いわ」と鼻で笑ったのだ。
つまり、僕ら二人が居ても自分たちの釣果には影響は無いとの意味に違いなかった。
その二人は格好が違った。
最新のタイツやベストで竿もみるからに高価なものを持っていた。
一方こちらは古めかしい格好だ。
祖父に至ってはジャージと三度笠のような様相である。
僕は内心なにくそっと思った。
泳がせ釣りでバンバン掛けて一泡吹かせてやるぞ、と竿を持つ手に力を入れた。
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