僕の職場には鮎釣りをする者が全くいなかった。

 故郷で同窓会があったとき友人ら何人かが友釣りをしていることを知った。


 そこで「泳がせ釣り」という言葉を初めて耳にした。

 鮎釣り大会で全国優勝をした大西名人という方が理論化した釣法とのことだ。


 祖父の教えてくれた釣り方は竿を寝かせてオモリでの中にオトリを沈めるやり方なのだが、この泳がせ釣りというのは聞かされた私には全く驚くような釣り方だった。


 オトリは引かれた方向と反対に進むらしい。

 鼻カンで繋がれた糸を後ろに引けば前に、右に引けば左に、左に引けば右にと進む。

 これを自在に操って野鮎のポイントまで泳がせていくというのだ


 そんなことが本当にできるのだろうかと疑った。

 友人が大西名人のビデオを持っているというので頼んで貸してもらった。


 私はそのビデオを食い入るように何度も見た。

 マジックでも見ているようにオトリがポイントまで泳いで行き野鮎が次々と掛かっていく。

 

 これは本当のことなのだろうかと居ても立ってもいられなくなった。


 週末、早速試してみた。

 流れの緩いポイントを選んだ。


 大西名人のように糸を緩めると流れに押されて糸ふけがつくられる。

 するとオトリがムチでも入れられたかのように前に進む。


 前進しかできないが確かにビデオのとおりだ。

 初心者はこの前進だけを繰り返し行うだけでも、釣果が断然違ってくるとビデオでは語られていた。