鮎釣りは釣りの中ではマイナーな釣りである。

 普通の釣りはハリに付けた餌を魚に食わせて釣り上げるが鮎釣りは違う。


 魚同士を喧嘩させて魚体にハリを引っかけて釣り上げる。

 鮎は川底の石苔を餌にしており、自分のテリトリーに他の鮎が進入してくると猛然と体当たりをして追い払う。

 

 この習性を利用したのが「鮎の友釣り」と呼ばれる独特の釣法だ。


 まず、釣り糸に結わえた直径5ミリ程の鼻カンと呼ばれる輪金具を鮎の鼻の穴に通す。

 鼻カンに繋がれた鮎は釣り人によって操られ、石苔を食んでいる野鮎のテリトリーへと送られる。


 鼻カンに繋がれた鮎をオトリと呼ぶ。

 オトリには釣り針を三本束ねた錨のような引っ掛けバリが仕掛けてある。


 野鮎がオトリに体当たりをすると錨針が野鮎の体に引っかかるという寸法だ。

 水中でもがく野鮎とオトリを素早く引き抜いてタモ網に収める。

 そして掛かった野鮎を今度はオトリとして使用する。

 これが鮎の友釣りだ。


 極意はオトリを如何に自然に泳がせて野鮎のテリトリーに送り込むかだ。

 そのためには長い竿がいる。

 十メートルや九メートルぐらいの長さは必要だ。


 僕が初めて鮎の友釣りをしたのは二十年ほど前のことである。

 お盆休みに高知に帰郷した際に子供らを川遊びに連れて行った。


 傍らでは祖父が鮎の友釣りをしている。

 祖父は興味ありげに見る僕に「ちょっとやってみるか」と竿を持たせた。


 僕は物干し竿のような重たい竿を両手で抱えるように持った。

 しばらくして何となく下手に引かれるような感覚を得る。


「掛かっちゃあせんか」と祖父に言われて竿を上げたら小鮎が二匹釣り上がってきた。


 なんだこの釣りは、釣れたか釣れていないかもわからない、とこの時はこの釣りをやってみたいという気持ちは全く湧き起らなかった。


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