次男が箱を斜めに持ち上げた。
マーモーが、ゆっくりと箱の中から滑り出す。
だがやはり固まったまま動かない。
確かに、これだけ大きくて肉付きが良ければ、腹ごしらえにはなる。毛が毟られて串刺しにされたモルモットが、焚き火でクルクル焼かれる姿を想像した。
確かに、年々給料は下がっているのだ。この下りはいったいどこで底を打つのかわからない。
マーモーが、ゆっくりと箱の中から滑り出す。
「で、でかい!」
ボクは思わず声を上げた。 体長は二十センチはあるだろう。
ふさふさとした光沢のある毛、耳が長ければウサギの子供と言っても差し支えない。顔は小さいが、腹から腰にかけてでっぷりと肉が付いている。顔は黒、体は茶色、首のまわりは襟巻きを巻いたような白。その襟巻きの白が、頭の真ん中まで細く伸び、そこで茶髪になって一筋立っている。口元に数本ピンと張った白髭も上品だ。鼻がヒクヒクと動き、クリクリっとした目はキラリと潤んでかわいい。 我が家との対面に緊張しているのか、マーモーは、紅葉の若葉ほどもないお手々を、グッと開いて固まっていた。
「脅かしてゴメンやでー」
家内がはれ物にでも触るように首の横を指先で撫でる。次男が干し草を一切れ取って口の近くに付けた。だがやはり固まったまま動かない。
「あんた、あんまりじろじろ見たらマーモーが怯えるからあかん」
家内が牽制する。じゃあお前のどアップの顔はなんなんだよ。マーモーから見たら、人間の鼻の穴なんか何か出てきそうで怖いと思うよ、きっと。 それにしても、ペットっていったいなんだろうねぇ。
みんな犬とか猫とか盛んに飼ってるけど。かわいいから癒される効果はあるんだろうけど、ただそれだけでしょ。悩みの相談に乗ってくれるわけでもないし、何かを生産してくれるわけでもない。ニワトリなら卵でも産んで若干の見返りもあるけど、モルモットなんか乳も出ないじゃない。「だからペットなのよ。生産性があったら家畜になるわ」
家内はまだマーモーを撫でている。「インディアンはモルモットを食べるために飼ってたんやって」
次男は本で読んだらしい。いつか喰ったろかぁ、と言ったら家内からーグーパンチが飛んできた。あた~。確かに、これだけ大きくて肉付きが良ければ、腹ごしらえにはなる。毛が毟られて串刺しにされたモルモットが、焚き火でクルクル焼かれる姿を想像した。
家内も一瞬想像したのかしかめっ面になった。
ひとしきりモルモットを見たボクは、冷蔵庫に向かい缶ビールを掴んだ。「あんた、扶養家族が増えたんやから、これから一寸は節約せんとねえ」
なぬっ、モルモットが扶養家族ってか。確かに、支出の増加は確実だから理屈には合っている。 最近、我が家では何かと支出削減が叫ばれるようになった。「鮎釣り、先週も行ったでしょう。ビール、発泡酒にしたら」
その矛先は、常にボクの趣味嗜好に向いている。確かに、年々給料は下がっているのだ。この下りはいったいどこで底を打つのかわからない。
「ふぇーい」
とボクは生返事をして、ビールをこそっと取り出した
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