家内と次男がティッシュ箱のような紙箱を囲んでいる。

「あんた、脅かしたりしたらあかんのやで。まだ子供やし、ストレスでお腹壊したり毛が抜けたりするんやから」
「けへっ、たかがネズミの分際で」
 ボクは晩酌でできあがっていた。

 家内の隙を見て素早く箱に手を伸ばすと、カルタ取りのように手が飛んでくる。
「こらっ、おっさん」
 家内の罵声が響く。

 家内は私の方を睨むと、一転していたわるように箱を見つめた。
 家内が干し草を掴んで、ほらほらと紙箱の前に置く。

 だが、なかなか出てこない。
 えーい焦れったい。

 箱の中から鷲掴みにして、口のところに干し草をねじだれぇと思ったが、今言うとボクの口にねじ込まれそうなので止めた。

「きっと、みんなが見てるからや。一人にしておいたら食べるわ」
 家内はリビングからの撤退を全員に命じた。しかたなく、ボクも肉じゃがと缶ビールを持って立ち上がった。
 と変な臭いが。

「ションベンの臭いやで」
 ボクが言うと、家内が眉間に皺を寄せる

「確かに、おやじの言うとおり臭いで」
 次男はまた箱の方に向かった。

「あんたが脅かすからやん」
「ええ、なんもしてないや~ん」
「あんたの酒臭い息がかかったんや」
 言いがかりも甚だしい。が、変な臭いはいよいよ強くなった。

「箱から出して拭くしかないで」
 次男が促す。

「マーモー、おーよちよち。お尻拭くからねー。ゴメンやでー」
 マーモーときた。もう名前まで付けてやがる。

 家内は、けったいな声を発しながら、箱にごそごそと手を入れた。箱がゴトンゴトンと鳴っては止まり、鳴っては止まりするが、マーモーとやらはなかなか出てこない。さすがに焦れてきたのか、家内の

「おーよちよち」というけったいな声は、徐々に低く絞り出す様になった。
 あぁ、焦れったいつまみだせっ。
 と、家内がアターッ! と奇声を発した。

「噛まれたっ、噛まれたわ。優しく噛まれた」
 家内は複雑な顔で右手をかざした。

 その様に、ボクと次男は思わず声を上げて笑った。家内が口を歪めて睨み付ける。