まいどー! 有田川ダム上の柴崎おとり店です(^^)/

和歌山県有田川ダム上にある柴崎おとり店のサイトです。 鮎釣りの遊漁券とオトリ鮎を販売しております。 鮎釣りの皆さんお気軽にお越しください(*‘ω‘ *) 柴崎おとり店 〒643-0601 和歌山県有田川町押手770-2 ☎073-726-0413

    有田川ダム上の水況などetc.


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    2020年09月

    「ほう、なるほど、その針で先週八十一匹も掛けたんですね」

     久米が問う。


    「銀治の研いだ針は刺さりがちがうがよ」

     純太は満足げにコップ酒を一気に飲みほした。

     

    「おいっ、おんしゃらあワシのハリもたまには研ぎに来いよー」

     長く伸ばした白髪に赤いバンダナを巻いた初老の男が近寄ってくる。

     

     純太は目を細めて会釈をした。

     

    「おんしゃあ。まっこと上手になったねや」

     白髪男は純太の横に腰を下ろすと酒を注いだ。

     

    銀治。おんしゃの目立てもオヤジさんを超えたがよ」

     白髪頭は隣の銀次の肩にポンと手を乗せた。

     

    「出藍の誉れよの。わかるか銀治?」

     銀治が苦笑いで首をひねる。

     

    「マサさん、おららあぜんぜん勉強はしちゃあせんきに許いとおせ」

     銀治は大きな肩をすぼめた。

     

    岡田さんの泳がせ釣りの唯一の継承者のマサが教えた純太は、いつの間にかマサの倍も釣るようになった。純太は岡田さんの全盛期よりはるかに上手やとわしは見ちょるがよ

     万作爺さんが話に絡む。

     

    岡田さんって、高知の伝説の鮎釣り師岡田八十吉のことですか

     そういって久米が身を乗り出した。

     

    「ああそうじゃ。岡田さんはうちの村の出身者じゃよ。あの頃は鮎釣り大会とかはまだなかったけんどな。大阪やら岐阜やらから鮎の腕達者な連中が岡田さんのもとに来ては試合を申し込み、ことごとく岡田さんに負かされたんじゃ。それで帰るころには皆岡田さんの弟子になりおったわ。そういや和歌山から来た若造も岡田さんと一戦交えて負けた後に弟子になりおったが、あれが一番飛びぬけて上手じゃったと岡田さんはいつも言いよったが、かわいそうに事故で死んでしもうたらしいわ。えーと名前は確か‥‥‥

     万作爺さんが思い出せずにいると横から白髪男が口を開いた。


    「鈴木ですよ。鈴木徹斉」

    「おおそうじゃそうじゃ」

     万作爺さんはポンと手を打った。


    「ワシは鈴木には全く歯が立たんかったがですきに。ヤツは天才でした。ヤツが生きていたら岡田さんの継承者は間違いなくヤツですよ。いや岡田さんをはるかに超えていたかもしれんがです」

     白髪男は語尾を震わせると弦月を見上げながら続けた。

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    「純太、この前平瀬でようけ掛けたらしいなぁ。万作爺さん、純太に酒注いじゃってや」

     万作爺さんと呼ばれる老人が純太に酒を注いだ。


    「純太、おまんは仕事もようやる。鮎もようやる。後は嫁だけながよ」

     万作爺さんは注ぎ終えてそう言うと今度は舞のそばに腰を下ろして「舞、飲め」舞の肩にポンと手を置いた。

     舞は口元だけで笑顔をつくってコップを差し出した。


    「おまん、ほっちょきほっちょき。若いもんは若いもんどうしでえいがよね」

     清子が口を挟

     純太はコップ酒を一気に飲み干すと口元を手の甲で拭った。


     座はもとの喧騒に戻りそこかしこで献杯が繰り返され


     高知の酒の飲み方は半端ではない。

     舞もコップ酒を飲み干していた。


     隣では目立ての銀治と呼ばれる巨漢が、一升瓶をラッパ飲みしてい


    「目立ての銀治、おんしゃあ(お前)ちっと味おうて飲め。水じゃないがぞ」

     痩身の老人が銀治の頭をパンと張ったが、銀治は一向にお構いなしだ。


    「あのぉ、目立てって何ですか?」

     久米が虚ろな目で問い返す。


    「武士の刀研ぎながよ」


    「はぁ、武士の刀?」


    「おららあ杣夫はねや、昔は武士の刀みたいに腰にでっかい鋸をぶら下げて山を歩き回りよったがよ。目立て言うたら、その鋸の歯をヤスリで削る仕事ながよね。こいた(こいつ)の家は代々目立てなが。原木をでかい鋸で切りよった時代は、ほりゃ大事な仕事やったけんど、かわいそうに今はチェーンソーの時代になってなんちゃあ無いがよ」

     老人は寂しそうに目をしばたたかせた


    「けんど今は、その目立てがおもしろいもん研ぎゆうがよ。なぁ、銀治」

     万作爺さんが銀治の肩を揉んだ。


    「何を研ギユウガデスカ?」

     隆人が土佐弁を真似ねると皆がドッと笑った。


    「鮎掛けバリながよ」 

     純太が答えた。


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    「おっ、今日は目立ての銀治も一緒か。おんしゃらあ(お前ら)いつ仲直りしたがなや。まぁ座れや。」

     村長は優しい顔で二人を手招いた。


    「銀治、石持ってこいや」

     純太と呼ばれる小柄な男が大男の銀治に言い付けた。


    「おぉ、おまんらあ鮎の味噌焼きやるがかそらたまらんぜよ」

     純太の持った味噌袋にさっきよさこい節を歌っていた老人が喜んで手を二、三度叩いた。


     銀治は直ぐに平らな大石を担いで戻ってくると炭火の横に立てかけた。

     そして、炭火に薪を入れると炎で石の表面を焼き上げ石を倒した。


    「なるほど石の鉄板焼きですか」

     久米が興味深げに近寄


     純太は持ってきた味噌を惜しげもなく袋から絞り出し、分厚い味噌で輪状の土手を焼石の上に造った。


     味噌がジュジュッと焼け


     味噌土手の内側にまだ生きている鮎をぶち込み、砂糖と塩と酒を振りかけ生卵を落とすと素早くかき混ぜた。


     ジュワジュワという音と共に、鮎や味噌が渾然一体となって何とも言えぬ香りが立ちこめる。


    「こら、たまらんぜよ。高瀬さんもやってみて下さい」

     言うが早いか、村長は既にバクバク食べていた。


    「男しだけに食わいてたまるか。舞ちゃんらあも食べてんや」

     清子が皿に盛

     始めて食べる鮎の味噌焼きに、慎也らは舌鼓を打った。


    「こんな旨い食べ方初めてやがな。馬路は最高や

     隆人は口をハフハフさせた。


     純太は更に持ってきた新聞広告の包みを皆の前に開いた。

     ウナギの蒲焼きだ。


    「さっき焼いたばっかりながよ」

     純太と銀治は椅子には座らず、一抱えの石に腰を掛けて酒を飲み始めた。


    「おい純太、慎也名人に無礼すなよ」

     耳元で囁く中村を純太は睨み返した。

     

     乾純太。

     先週、八十一匹もの鮎を掛けた男である。

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    「どうぞ」

     舞が皿に盛ったお寿司を隆人に差し出した。


     隆人は礼を言いながら舞の顔を間近ではっきりと見た。

     雅との違いを見つけようとしたのだがどこにも見あたらない。


     本当にこれは雅なのではないのか。

     自分は夢を見ているのではないだろうか。


     雅なら今三十のはず。

     強いて言えば舞はもう少し若く見えるが、女の歳など化粧一つですぐにわからなくなる。

     舞の口から出る流ちょうな土佐弁が不思議でたまらなかった。


     舞が慎也の方にお寿司の皿を差し出した。

     慎也は舞にちょっと会釈をしただけで、また、年配者らと歓談を続ける。


     慎也はこんなにも雅似たを前にしてどう思っているのだろうか

     舞という女を他人のそら似だと思っているだけなのだろうか。


     隆人は昨夜橋の上で慎也が突然笑い声をあげたことがずっと気になっていた。


     慎也が自殺未遂まで起こしたあの頃に逆戻りするのではないかという不安に駆られたからだ。


     隆人は安田川でこんな予期せぬことが起こるとは夢にも思わなかったと、コップ酒を一気にあおった。


     とにかく舞が雅でないことを自分がしっかりと確認し、慎也に認識させる必要がある。


     隆人は繰り返される献杯の最中、舞と話をする機会を伺った。


     宴はますます盛り上が


     酔った老人がよさこい節を歌い始め、皆の手拍子が鳴り始めた時だった。

     舞の兄が急に立ち上がって甲高い声を上げる。


    「おんしゃあらあ(お前達)、何しに来たがなやっ」

     よさこい節が止まった。


     舞の兄が指さす方に目をやると暗闇の奥に二人の男が立って近づいてくる


     一人は小柄でがっしりとした体躯、もう一人はとてつもなく上背のある相撲取りほどの大男だ。


    「純太と銀治か」

     中村はコップ酒を傍らに置くとポッカリと浮かぶ月を仰いだ。

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     隆人は舞を見つけるとすぐさま慎也の顔を伺った。

     慎也は舞に視線を向けるでもなく平然としたままだ。


     村長の乾杯で宴会が始まった。

     テーブルの上には土佐の皿鉢料理が幾皿も並び、大きな炭火の周りには沢山の串刺しの鮎が並べられている。

     鮎は、ジュウジュウと肉汁を垂らし身を反らしていた。


    「さっきまで生きちょったがです。焼けちゅうがを食べてみて下さい」

     村長がホクホクに焼けた鮎を勧めた。

     鼻先に塩焼き鮎の香ばしい香りが漂


    「う、旨い。こら旨い

     隆人はあっという間に数匹をたいらげた。


    「どうです、日本一の鮎は腹の苦みが違いますろ」

     村長は自慢げ言うと、今度は一升瓶を傾けて日本酒を勧めた。


     鮎は川の石に生えた苔を食べる。

     その苔が鮎の腑の中で独特の苦みをつくりだして旨味を決定するのだ。


     馬路の鮎は脂の乗ったほの甘い白身に良質の腑の苦みが溶け混じって、何ともいえぬ美味しさを醸し出していた。

     ところが、村長に注がれた酒がめっぽう辛い。


    「地酒の土佐鶴ながです。辛いけんどこの酒が馬路の鮎には一番合うがです」

     しかめっ面の隆人の顔を見て中村が笑った。


    「おい、ウルカも持って来ちょったろが。出いちゃってん」

     頭に手拭いを巻いた中年がよろけて立ち上がった。

     舞の兄だ。

     ウルカとは鮎の腸の塩からである。


    「酒に最高ながよ」

     瓶詰めのウルカが小皿に盛られた。


     始まって半時間も経っていないのに、隆人も久米ももう酔っぱらってきた。


     高知は献杯といって、自分の飲んだ杯を交わしながら次々とみ合う

     また、女性も男性同様に酒を飲む土地柄だ。


    「寿司も食べてみて下さい。馬路の寿司は柚子がきいちょって旨いですぞね」

     エプロン姿の清子と呼ばれる女性が、隆人の横で皿鉢を差し出した。


     皿鉢には大きな鯖の姿寿司や海苔巻きなどが色とりどりと盛られている。

     隣に舞が寄ってきて寿司を皿に盛り始めた。

    キャプチghghャ

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