まいどー! 有田川ダム上の柴崎おとり店です(^^)/

和歌山県有田川ダム上にある柴崎おとり店のサイトです。 鮎釣りの遊漁券とオトリ鮎を販売しております。 鮎釣りの皆さんお気軽にお越しください(*‘ω‘ *) 柴崎おとり店 〒643-0601 和歌山県有田川町押手770-2 ☎073-726-0413

    有田川ダム上の水況などetc.


    アウトドア好き https://clear-cube.info/
    車好き     https://better-plus.info/

    2020年09月

    あたし、その高瀬さんから大阪の連絡先と住所渡されたが」

    「あ、あんたまさか」

     清子は暗闇で舞の目を探した。


    「あたし、高瀬さんが勝ったら大阪に行くことに決めたが。親が反対しても絶対行くがに決めたがよ。あの人はこの村が気に入ったからこの村に住む言うたけんど、そうなったら村には住めんき。あたしは村を出ていくが」

    「ま、舞ちゃん。あんた、気でも狂うたかね」


    「まだ狂うちゃあせんが。でも、狂いそうなが。雅と一緒ながよ。自分でもわからんなったこの気持ちを・・・・・・あたし、明後日の試合の結果に委ねてみたいと思うたが。自分の運命として

     舞の語気の強さに清子は怯んだ。

     一、二歩よろけると、それ以上の言葉を発することが出来なくなってしまった。


     昨夜、暗い河原で慎也は舞に詰め寄った。


     舞は川岸に蔓延ったアケビの葛に足を取られバランスを崩した。


     慎也と舞は縺れ合って、まだ昼間の熱の残る暖かな砂地に転んだ。

     だが、二人が直ぐに起きあがることはなかった。


     その時、どれほどの時間が経ったのか舞には分からなかった。


     ふと、河原に降りてくる男の声に気付いた舞は乱れ髪を手櫛で解いて上半身を起こした


     二人連れの男月の隠れた暗闇の河原に降り立ったのが見えた


     慎也と舞に気付いた男は、向こうからチラリこちらを振り向いただけで直ぐに真っ暗な川の中に入っていった。


     だが、川の中で発せられた男の一言、舞を恐怖の底に陥れた。


    「純太、ウナギの仕掛けこっちにも浸けちょけや」

     舞はその夜、明け方まで一寸も微睡むことさえできなかった。


    publicdomainq-0004745tnr

    「わかったわかった誰っちゃあに言わんぞね

    「昨日、あの大阪から来た高瀬さん言う人が、一寸話がある言うて食堂の片付けが終わったところへ訪ねてきたがよ」


    えっ、なんでぇ?」

    「それが、突然、鈴木雅という女性を知らんかいうたがよ。あたしびっくりして」


    「な、何で雅の事知っちゅうがぜ」

     清子は目を剥いて後ずさりをした。


    「それが、その人あたしを雅やないかって言うがよ。あたしが驚いた顔見て、よけいにそう思うたがかもしれんけんど。あたしがなんぼ違う言うても、何回もしつこく訊くが。それが、普通の訊き方やないがやき。調理場の板長らあにも声が聞こえだたきに外に出て下の河原に降りたが、そしたら俺はなんにも怒ってないとか訳のわからんこと言いだいたがよ」

    「そ、それは


    「そうながよ、あたしも思い出したが、お母ちゃんが好子おばちゃんから聞いた話を。雅が和歌山で付き合いよった男と駆け落ちまでするいうて大騒ぎになって、結局、強制的に和歌山から串本に戻されたろう。その後雅は大変なことになったじゃいか。高瀬さんいう人は、どうもその時の彼氏に違いない、いや間違いないがよ

    「そ、そんなことって」


    「雅は今はちゃんとした家庭も持って落ち着いちゅうきに、あたしは黙ったままなんちゃあよう話さんかったがよ」

    「そら、言われん。絶対言われんがよ。面倒なことになったらえらいことぞね」


    「あたしは鈴木雅らあ知らん。他人のそら似やいうて最後まで言い張った。けんど、お前は雅じゃないんか言うてしつこく訊いて、押し合いになったが。あたし・・・・・・」

     舞はたまらず声を震わせながら詰まらせた。嗚咽する舞の顔を清子はじっと覗き込んだ。


    「どいたがぞね舞ちゃん。何かあったがかね?」

    「あたし、ただ押し合いになって転んだだけやったがよ。けんどあたし、怖いが」


    「その大阪から来た高瀬っちゅう男も狂うちゅうが。明日、あて(私)が言うちゃるきに!」


    「違うが! 怖い言うたがは自分が怖いがよ」


    「な、なんて?」

     清子は拍子抜けしてよろけた。


    publicdomainq-0004745tnr

     十時過ぎ舞は叔母の清子と一緒に宴を引き上げた。


    「男しらあに付き合いよったら夜が明けらあね。皆ちっと飲み過ぎながよ」

     そう言って清子は坂の折り返しで立ち止まると、まだ騒がしい河原の方に目をやった。


    「いかん、月が隠れゆう。どうでもあいた(明日)は雨ながよ」

     清子の言葉に舞も足を止めて「水が出るろうかねえ」とポツリと呟いた。


    「さあよ、ようけ水が出たらさっき言いよった純太らあの試合もできんなるがよね。それでえいがやないが」

     清子はまた歩き始めた。


    「清子おばちゃん・・・・・・。あたし、話があるがよ」

     舞は今度は振り向いて清子に目を合わせた。


    「なんぞね 舞ちゃん

    「あたし、明後日の試合に純太が勝ったら純太と結婚するがに決めた」


    「ど、どいたがぞね急に」

    「あたし、純太とのことずっと悩んじょったけんど、あの試合の話が出た時にそれで自分の運命を決めろうと思うたがよ」


    「えいがかねあんたあ、そんなことで大事な一生決めても」

    「かまんがよ。幸せになれんかったらそれが私の運命ながやき。あたしも純太のことがわからんがやも」

     舞は俯いた。


    「純太は働きもんでええ子やけんど、とにかく酒飲みじゃ。酒の苦労は覚悟しちょかないかんがよ。けんど、純太は舞ちゃんのことが好きでたまらんがじゃろがね。人間、好いてくれて大事にしてくれる人と一緒になるがが一番ながぞね

    「それはわかっちゅうがよ」


    「純太はお母さんのことがあるきに、この年まで舞ちゃんにに結婚のことをはっきりよう言わんかったがやないがかね。舞ちゃんの方からもっと強引に結婚のことを言うた方がよかったがやなかったろうかねえ」

     純太は子供の頃から母子家庭で、成人してからは体の不自由な母の面倒をずっと一人でていた。


    「あたしはそんな事情も純太からはっきり言うてほしいが。なんぼいても純太は黙ってばっかりながよ。あたしやってもう疲れた。それに・・・・・・」

     舞は言葉を詰まらせた。


    「あたし、自分でどうしてえいかわからんなったがよ」

     舞は俯いた顔を横に振った。


    「どいたがぞね?」

     舞は黙ったままだ。


    「おばちゃんにだけながやで、絶対に人に言わんちょってよ」

     そう言って舞は清子のそばに身を寄せた。


    dc8d2cf7dae8d50babeacc2b8c154dfd43c1f478_jpeg

     酔っぱらった中村が寄ってくる

    「純太、おまんがなんぼ鮎掛けが上手いゆうたち、高瀬名人にかかったら赤児同然ながよ」


    「おらぁ誰にも負けんちや」

     中村の嘲るような言い回しに純太は語気を荒げた。


    「これが土佐のいごっそながよ。おらぁ純太が好きぞ。ほりゃ飲め」

     万作爺さんは嬉しそうに純太に酒をついだ。


     舞のよろけながら純太に近寄


    「えいか、おまんがそればあ言うがやったら、高瀬名人に勝ってみいや。勝ったら何でもおまんの言うこと聞いちゃらあや」

     そう言って、酔った体を二、三度揺らせると、一升瓶を握ったまま地べたに落ちるように胡座を掻いた。


    「お、お兄ちゃん」

     舞はそう言って唇をかんだ。

     

    「純太、おまんやったら相手がプロでも絶対負けんがよ」

     目立ての銀地が豪快に笑

     純太は立ち上がってコップ酒を一気に飲み干した。


     座は再び静まりかえり、安田川のせせらぎだけが闇から響いている。


    「で、場所はどこでやるのでしょうか?」

     久米が静かに訊く。


    「島石ながよ」

     そう言って純太は川のそばに燃え盛る焚火に薪を投げ入れた。

     火の粉が暗闇に舞い上がる。


     周囲から川の音を消すほどのどよめきが起こった。


    「おまんらあほんまにやるがかっ。止めちょけ止めちょけ。よりによって島石らあみたいなこわいく(危険な場所)でやることないがよ


    「いや、でもあそこやったら鮎が大きいきに純太にも勝ち目があがよや」


    「あほう、全国大会十連覇のプロに純太ごときがかなうかや。寝言ばあ言うなや

     再び酔っぱらいの喧騒が大きくなった。

     宴会は二人の鮎釣り試合の話で夜更けまで延々と続いた。

    F00YI3-w_jpeg



    「鮎釣りを楽しいと思うだけの人間はそれはそれでええがよ。そやけんどな、自分がもっと上手になりたいと上を目指す人間は常に闘うことや。それは自分と闘うこと。そして他者と闘うこと。自分より上手な人間と闘うことで、その闘いの最中に自分でも驚くほどの釣技が出現するがよ。鈴木徹斉とはそんな男やった。もう一度、おらは身震いするような男同士の高揚を見たいがよね」
     白髪男は言い終えると純太に視線を移した。
     
    「また大学出のマサの講釈が始まったか。おんしゃはその理屈こねるんがなかったらもっと上手うなっちょったがよね」
     近くで聞いていた老人が笑い声をあげた。
     白髪頭は一向に取り合わずに純太の方に身を乗り出す。
     
    「純太。お前は高瀬名人と闘え」
     純太が傾けたコップ酒をピタリと止めた。
     
    「おらぁ誰ちゃあに負けんがよ」
     純太の目に焚火の炎が映って燃える。
     
     久米の目は純太にくぎ付けだ。
     
    「おーい久米さぁーん」
     と足のもつれた隆人がなだれ込んできた。

     すぐさま後についた慎也が抱きかかえる。
      白髪頭はやおら立ち上がると慎也の前に進み出て深く腰を折った。

    「高瀬名人。うちの純太と一緒に鮎釣りをしてあげてください。ぜひ!」
     白髪男の大きな声に、時間が止まったように宴は静まり返った。

     皆の視線が慎也の一点に集まる。
     白髪男は腰を折ったまま慎也の言葉を待った。

    「いいでしょう。私も上手な方と一緒に鮎釣りがしてみたい」
     慎也は純太に視線を合わせると頭を下げた。
     
     久米が手を掲げて拍手をすると皆もつられて拍手をした。

    「おーいっ、もぅお開きか? あん‥‥‥」
     隆人はそう言ったっきり、慎也の手の中でぐったりと目を閉じた。

    51c25d5fd0fcdea1a6cf4336c9493c74_m1

    このページのトップヘ