「あたし、その高瀬さんから大阪の連絡先と住所を渡されたが」
「あ、あんたまさか」
清子は暗闇で舞の目を探した。
「あたし、高瀬さんが勝ったら大阪に行くことに決めたが。親が反対しても絶対行くがに決めたがよ。あの人はこの村が気に入ったからこの村に住む言うたけんど、そうなったら村には住めんきに。あたしは村を出ていくが」
「ま、舞ちゃん。あんた、気でも狂うたかね」
「まだ狂うちゃあせんが。でも、狂いそうなが。雅と一緒ながよ。自分でもわからんなったこの気持ちを・・・・・・あたし、明後日の試合の結果に委ねてみたいと思うたが。自分の運命として」
舞の語気の強さに清子は怯んだ。
一、二歩よろけると、それ以上の言葉を発することが出来なくなってしまった。
昨夜、暗い河原で慎也は舞に詰め寄った。
舞は川岸に蔓延ったアケビの葛に足を取られバランスを崩した。
慎也と舞は縺れ合って、まだ昼間の熱の残る暖かな砂地に転んだ。
だが、二人が直ぐに起きあがることはなかった。
その時、どれほどの時間が経ったのか舞には分からなかった。
ふと、河原に降りてくる男らの声に気付いた舞は乱れ髪を手櫛で解いて上半身を起こした。
二人連れの男らが月の隠れた暗闇の河原に降り立ったのが見えた。
慎也と舞に気付いた男らは、向こうからチラリとこちらを振り向いただけで直ぐに真っ暗な川の中に入っていった。
だが、川の中で発せられた男の一言が、舞を恐怖の底に陥れた。
「純太、ウナギの仕掛けこっちにも浸けちょけや」
舞はその夜、明け方まで一寸も微睡むことさえできなかった。