まいどー! 有田川ダム上の柴崎おとり店です(^^)/

和歌山県有田川ダム上にある柴崎おとり店のサイトです。 鮎釣りの遊漁券とオトリ鮎を販売しております。 鮎釣りの皆さんお気軽にお越しください(*‘ω‘ *) 柴崎おとり店 〒643-0601 和歌山県有田川町押手770-2 ☎073-726-0413

    有田川ダム上の水況などetc.


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    2020年08月

     ウエイトレスは一寸首を傾けて怪訝そうな顔をしたが直ぐに口元で笑顔を作った。

     その様を見た中村が「あれ、舞ちゃんのこと知っちゅうがぜすか?」と訊く。


    「誰かに似ていましたか

     そう言って、久米が隆人に顔を振った。


    「舞ちゃんはこの村で一番の美人ながぜす。タレントの何とかちゃんって人に似いちょって、この前も慰安旅行の時に博多の駅で中学生らあにそのタレントに間違えられてちょっとした騒ぎになったそうです

     中村は笑いながらビールを勧めた。


     「そう、それ。確かにテレビで見る何とかってタレントにそっくりなんでそれでびっくりしたんやがな

     隆人わざとらし笑い声が上がる。


     料理と酒が進むに連れて隆人はいつもの愉快なペースに戻っていったが、慎也の表情は固く膠着したまま最後まで崩れることはなかった。


     時計はいつの間にか時を廻っていた。

     宴がお開きになると隆人は慎也を夕涼みに誘った。


     外に出ると辺りはすっかりと夜の帳に包まれてい

     二人は吊り橋の方へと足を進めた


    「しかしさっきは驚いたなぁ、ワイもびっくりしたわ。他人のそら似とはとても思えんかったわ

     隆人は吊り橋の真ん中で立ち止って慎也に語りかけると一方的に続けた。


    「でもあれは雅やない。支払いの後中村さんに訊いたら、あの女清岡舞ゆうて独身で間違いなくこの村の出身者やった

     慎也は吊り橋の欄干に背を持たせて黙ったままだ。

     真っ暗な底で川のせせらぎだけがザワザワと騒いでいる。


    「ただ、彼女高校出た後三年ほど大阪の百貨店で働いとったらしい」

     隆人の語尾が重たくなった


    「時期はあの頃やけどあれは絶対に雅やない。なんぼ外見がそっくりでも中身は全くの別もんや。他人の空似っちゅうやつやがな」

     隆人がそこまで言うと、慎也は急に乾いた笑い声をあげた。

     隆人は、柄にもなく深刻になっている自分を慎也が滑稽に感じて笑ってくれたのだと思いたかった。

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     午後六時、一行は馬路村に到着した。


     宿泊所は安田川に面した馬路温泉の施設内のログハウスだった。

     中村ら地元の数人が出迎える。


    「初めまして中村です。だい、この度は馬路村に来てもらいましてありがとうございます。今日はお疲れでしょうから温泉でもつかってゆっくりしちょって下さい。明日は河原でお客用意しちょりますきに」

     中村は高瀬慎也名人を前に少し緊張していた。


    「お客って?」

     そう言って隆人が首をかしげるとすかさず久米が答えた。


    「高知では宴会の事をお客というんです」

    「へー、お客ねえ。てっきり久米さんがタコ焼きかなんかの出店でも出すんかと思うたわ」

     と隆人が言うと周囲から一斉に笑いが上がった。


    「夕食は部屋に運びましょうか。それとも食堂で食べられますか?」

     中村の横の青年が紅潮した顔で尋ねると、隆人が慎也の顔を伺った。


    「食堂の方で食べましょう」

     慎也はポツリと呟くとまた川の方に目を移した。


    「本当に綺麗な川でしょう」

     と久米も暮れなずむ川面に目を移す。


    「とにかく飯や飯。飯にしようで。腹減ってかなわんわ

     隆人は荷物を持つとログハウスの方に歩き始めた。


     食堂に行くと数組の宿泊客が夕食をとっていた。


     その一角に中村ら数人が座ってい

     中村は一行が座ると直ぐにビールを頼んだ。


    「舞ちゃん、ビール10本ばぁ持って来てや」

     中村の声に暖簾の向こうからハーイと言う若い女の声が聞こえた。

     カートでビールが運ばれてくる。


     メニューを見ながら歓談する皆の前に次々とビールが置かれていった。


     と、何気なくウェイトレスを見上げた慎也の顔色が一瞬で変わるのを対座していた隆人が気がついた。

     隆人も振り返ってウエイトレスに視線を移した瞬間、思わず目をむいて「あっ」と声を上げてしまった

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     七月末、慎也ら一行は大阪を出発し高知県の馬路村へと向かった。

     

    「明石の橋が出来てから四国もずいぶん近くなりました。今、左手に見えているのがジャパンフローラの花博の会場です。有名な建築家の安藤忠夫さんが設計されたそうです」

     道中、久米はガイド役を勤めた。


     一行は、太平洋の大海原に沿った海岸線の道を延々と進んだ。

     慎也の希望で徳島の海部川に立ち寄っただけで、ほとんど休憩なしで馬路村へと急いだ。


    「次の信号から入ります」

     車内の時計は午後五時を指していた。

     大阪を出発してからもう半日も車に揺られている。


     久米の指さす方に大きな鮎のモニュメントが見えた。

     鮎おどる清流安田川と書かれてある。

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     馬路村はここから約二十キロ上流の村だ。

     山道に入る手前の橋から河口が見えた。


     その遠方に濃い緑の山が幾重にも重なっている。

     小さな川やなぁ、と隆人は大きな欠伸をした。

     確かに小さな川だが水量は十分にある


    ちょっと川を見ましょうか」

     十五分ぐらい川を遡ったところで慎也が言った。


    「向こうに見えている赤い橋で良いですか」

     助手席から久米が振り向いて応え

     一行は赤い橋のたもとに車を連ねた。


     車から降りて川を見下ろすと、何人かの釣り人が竿を伸ばしていた。

     鮎は夕方がよく釣れる。


     強い西日のせいもあってか、釣り人の中にはまだ腰まで浸かりこんで釣っている者もいた。


    「おー、こら鮎がぎょうさんおるわ。これならワイでも三十匹は掛けれるで。それに、噂どおり綺麗な川や。透明度がむっちゃ高いやんけ

     そう言って、隆人は気持ちよさそうに両腕を伸ばした。


    「上流は透明度に加えて更に趣のある川相です。海部川は割合と砂地が多く平坦でしたが、ここは山から落ちた大岩がゴロゴロしています。川と言うよりはむしろ渓谷に近いと言った場所も多数あります。きっとその川相が良質の珪藻を育み、日本一美味しい鮎をつくりだしているのだと思います」

     一行はまた車に乗り込み、しばらく走ると久米の言うとおりの光景が開けてきた。


     川は規則的に植林された山と山の底辺を這うように流れ、夥しい大小の岩々は近畿の川に比べると全体に丸みを帯びている


     水量も思ったより豊富で、不思議なことに下流より上流に向かうほど水量が増してくる。

     川底の石は茶色と言うよりはむしろ黄金色に近く、金板を敷き詰めたようにも見える。


     青々と泥む大淵や、豪快に白濁する荒瀬の連続に慎也と隆人の目は釘付けになった。

    キャプffチャ

    「よくご存じで。中村からは連載の鮎百河川を見てぜひとも安田川に高瀬名人に来てほしいとの連絡があったんです」

    「いやー、あのポン酢醤油は美味しいですわ。うちの家族も大好きで鮎の素焼きにかけても最高やし。行きたいなー」

     横で慎也もにっこりと頷く。


    「で、どのくらい上がってます?」

     慎也が鮎の釣果を訊いた


    「はい。だいたい二十から三十です。ただ、先週馬路地区で八十一匹上げた人がいるそうです」

    「へぇ、そら多めに言ったとしても、すごい数やないかい

     と隆人が目を丸くする。


    群れ鮎がいるのですか?

     釣果の話になると慎也の顔が引き締まった


    いえ、近畿の鮎のように群れてはいません。安田川は下流域は天然遡上主体ですが上流の馬路地区は放流魚です。湖産系はもう釣りきられてしまって追いの渋い海産系ばかりなのですが、中村の話によるとその人だけが特別だと言ってます」


    「へぇ、つまり腕ってことですかい」

     隆人は自分の腕をポンポンと叩いた。


    「八十一匹は凄いですね」

     と慎也は腕組みをした。


    「えぇ、中村の話ではその人だけちょっと釣り方が変わってるらしくて

    「どんな風にですか?」


    「泳がせ釣りの一種みたいで、私も詳しいことは分かりませんが、どんな荒瀬でも囮鮎を巧みに上流に登らせるらしいんです」

    「超極細糸でしょうか?」


    「はい、それがフロロの〇.四とのことで」

     久米の言葉に慎也の眉がぴくりと動く。


    「それは糸が太過ぎる。そこまで言ったら嘘になるでぇ」

     隆人は笑いながら慎也と久米の会話に口を挟んだ。

     

    「それで中村のいう話では、地元でずば抜けて上手なその人と高瀬名人が対決したら一体どちらが勝つのだろうと、村の鮎釣り師たちの間ではいつか鮎百河川が安田川に来たらぜひ二人に鮎釣りで特別試合を組んでほしいと、いや、そこまではっきりとは言いませんがそんなニュアンスで中村はぜひとも二人で釣りをしてほしいと言っております」

     久米は言いにくそうに語尾を濁した。


    「おい久米さん、そりゃああんたが雑誌の売り上げを伸ばすために考えたことだろうよ。そんなことやったらメーカーが黙っちゃいないよ」

     と隆人は口を尖らせた。慎也はじっと黙ったままだ。


    「慎也、そんな企画受けることはできんぞ。もし万が一負けでもしたらメーカーの看板に傷がつくってもんだろう」

     隆人が語気を強める。


    「俺が負けるって?」

     慎也は口元を少し緩めたようにも見えた。


    「い、いゃ万が一だよ。何事にも万が一ってことがあるだろうが慎也」

     隆人が弱い目を慎也に返す。


    「わかりました。その企画お受けいたしましょう」

     慎也は腕をほどくとしっかりと久米に目を合わせた。


    「お、おいちょっと待てや。そんなこと」

     隆人が目を丸くして慌てる。


    「あ、ありがとうございます。すぐ、雑誌社の方に連絡を取って準備に取りかかります」

     久米の言葉に慎也はこっくり頷いた。


    「し、試合はさせへんし、仮にそんなことしてもそこだけはぜったい記事にすんな、ええかっ」

     隆人の言葉を聞き流すように久米は立ち上がると、部屋の外に出て電話を始めた。


     隆人はショルダーバックから手帳を取り出すと、ぶつぶつ言いながら忙しくページをめくった。

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     隆人は公務員試験には受からずそのまま叔父の宅配会社で働きながらも、いつの間にか慎也のマネージャーとしての仕事の方が忙しくなっていた。

     慎也が四連覇を達成した年、釣り雑誌「スーパーアングラー」がある企画を持ち掛ける。

     それは「鮎釣り百河川の旅」として全国の鮎釣り河川を紹介するものだ。

     鮎釣り師なら願ってもない話なので慎也が快諾をするのは当たり前なのかもしれないが、隆人には少し心配なことがあった。
     慎也の鈴木雅へのこだわりである。

     全国行脚は雅を探す旅ではないのか。
     隆人は従妹の真紀のことも気がかりになっていた。

     真紀が慎也に想いを寄せていることは慎也自身も知っているはずだ。
     隆人は慎也が真紀と一緒になってくれることを願っていた。

     真紀はこの年頃になっても他の男の誰にも気を許さない。

     慎也が真紀のことをどう思っているのかわからないが、精神疾患のまだ完全に治りきっていない慎也にそのような話で踏み込むことなどとてもできなかった。

     隆人はそんな複雑な思いで「鮎釣り百河川の旅」の企画書に目を落とした。

     その年の秋から「鮎釣り百河川の旅」はスタートする。
     取材は順調に進んで人気企画として三年が過ぎた。
     
     この間も連覇を続ける慎也は、かつての荒川名人が打ち立てた全国大会七連覇の偉業に並んだ。
     来年優勝すると新記録となる。

     そしてその年、「鮎釣り百河川の旅」は四国へと舞台を移すことになった。

    「日本一美味しい鮎を食べに行きませんか」
     釣り雑誌スーパーアングラーの担当者である久米は四国の地図を広げた。

    「四国っていったら四万十川とか吉野川は知っていますが、その安田川とやらはいったいどこにあるんですか」
     と、マネージャーの隆人が地図に目を落とす。

    「四万十川の反対側で室戸岬の方です。小さな隠れ川ですがダムが無く水もきれいで四万十とはまた違った魅力のある川です。その川の鮎が昨年初めて行われた全国利き鮎大会で日本一になったんですよ」

    「へぇ、そら食べてみたいなぁ」
     隆人は目を細めた。

    「私の大学時代の中村という友人が、この安田川の流れる馬路村という小さな村で農協の課長をしておりまして」

    「あっ、あのポン酢醤油の馬路村かぁ」
     隆人が顔を上げると久米はにっこりと頷いた。
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    【ちょっとひとり言】

     小説「安田川」は20年ほど前に書いた小説ですが
     ぼちぼち加筆修正しながら掲載しています。

     ある公募に入賞して出版社から共同出版を出版社7割でしないかと持ち掛けられた作品です。
     出版社の社員が自宅にまで来た時には驚きました。

     が、印税を計算すると2万部売れなくてはペイできなくて断念しました。
     なによりその時は副業収入はできませんでしたので、著作権を自分で持っておいて退職したときにでもどうするか考えようと置いていた拙作です。

     実は今回別の目的もあってブログを立ち上げ掲載をはじめました。
     それはグーグルアドセンスの承認を得ようとしたのです。
     もう一つのエッセイブログもそうです。

     が、なんとグーグルアドセンスの審査はここ数か月前から突然厳しくなっており独自ドメインでなければ申請すらできなくなっています。
     それまではホイホイと合格できたのに残念です。

     ま、そんな邪心は捨ててボケ防止もかねて小説安田川を続けたいと思います。
     この間鮎釣りの道具もずいぶん変化したのでそんなことも考えながらの書き直しをしてみます。

     ひょっとしたら後半、大きくストーリーが変わるかもしれません。
     自分でも楽しみながら進めてみますので、お時間のある方は読んでいただき
     あそこはこーしろ、ここはこう書け、あれはちがうとかの叱咤ご指導をいただければ幸いに存じます。

                                                                                                                                        by がばちゃ

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