ウエイトレスは一寸首を傾けて怪訝そうな顔をしたが直ぐに口元で笑顔を作った。
その様を見た中村が「あれ、舞ちゃんのこと知っちゅうがぜすか?」と訊く。
「誰かに似ていましたか?」
そう言って、久米が隆人に顔を振った。
「舞ちゃんはこの村で一番の美人ながぜす。タレントの何とかちゃんって人に似いちょって、この前も慰安旅行の時に博多の駅で中学生らあにそのタレントに間違えられてちょっとした騒ぎになったそうです」
と中村は笑いながらビールを勧めた。
「そう、それ。確かにテレビで見る何とかってタレントにそっくりなんでそれでびっくりしたんやがな」
隆人のわざとらしい笑い声が上がる。
料理と酒が進むに連れて隆人はいつもの愉快なペースに戻ってはいったが、慎也の表情は固く膠着したまま最後まで崩れることはなかった。
時計はいつの間にか八時を廻っていた。
宴がお開きになると隆人は慎也を夕涼みに誘った。
外に出ると辺りはすっかりと夜の帳に包まれている。
二人は吊り橋の方へと足を進めた。
「しかしさっきは驚いたなぁ、ワイもびっくりしたわ。他人のそら似とはとても思えんかったわ」
隆人は吊り橋の真ん中で立ち止って慎也に語りかけると一方的に続けた。
「でもあれは雅やない。支払いの後で中村さんに訊いたら、あの女は清岡舞ゆうて独身で間違いなくこの村の出身者やったわ」
慎也は吊り橋の欄干に背を持たせて黙ったままだ。
真っ暗な底で川のせせらぎだけがザワザワと騒いでいる。
「ただ、彼女は高校を出た後は三年ほど大阪の百貨店で働いとったらしい」
隆人の語尾が重たくなった。
「時期はあの頃やけどあれは絶対に雅やない。なんぼ外見がそっくりでも中身は全くの別もんや。他人の空似っちゅうやつやがな」
隆人がそこまで言うと、慎也は急に乾いた笑い声をあげた。
隆人は、柄にもなく深刻になっている自分を慎也が滑稽に感じて笑ってくれたのだと思いたかった。