釣具店なら教えてくれるだろう、と僕は車を走らせた。
釣具店の鮎コーナーには一種類の金属糸が置かれていた。
まだ、売り出して間もないとのことで買われるお客さんも少ないとのことだ。
僕は興奮していたが値段を見てため息が出た。
なんと12メートルで5000円ぐらいもする。
ナイロン糸なら50メートル巻で1000円だ。
毎月の小遣いで手の届くものではなかった。
一度買えば長らく使える耐久消費財でもないだろう。
買わないのに訊くのは気が引けると思っていたら、都合よく他の客が金属糸のことを尋ね始めた。
店員の周りに一人二人と聞き耳を立てる輩が集まる。
金属糸の最大の課題は結節方法である。
つまり、穂先から垂れ下がる天井糸とその下に位置する金属糸とをどう結ぶのか。
また、その金属糸から水中部分に没する鼻カン周りの仕掛け糸とをどう結ぶのかが私にはさっぱりわからなかった。
これまでのようにチチワで絞るといったやり方では金属糸はあっさりと折れてしまうに違いないのだ。
と、その店員は意外な言葉を口にした。
「編み付けと言いますが、まぁ女の子が髪をお下げにして編んでいますでしょう。あれですよあれ」
と店員さんは白い歯を覗かせた。
その結節方法とは、金属糸の方は全く曲げないでナイロン糸の方を金属糸に巻き付けてしまうやり方なのだという。
「あのー、ちょっと実際にここでやってはもらえないでしょうか」
と僕が口をはさむと他の客も賛同した。
店員はそそくさと店の奥に消えるとロープを手に戻ってきた。
「こちらが金属糸、こちらがナイロン糸です」
と言って店員は編み付けを始めた。
速すぎてよくわからない。
「もうちょっとゆっくりやってくれまへんか」
と客の一人が言う。
店員はもう一度ゆっくりと編み付けを行った。
僕は目を凝らして観察し頭にたたき込んだ。
車に戻ってからも、編み付けの所作を何度も手真似で反芻した。
帰宅してから直ぐに裁縫の糸を取り出し編み付けを試してみた。
が、なかなかうまくいかない。
家内が怪訝そうな目で見る。
子供らはおもちゃでも作ってくれるのかとじっと寄ってきて覗き込む。
僕は、まとわりついて騒ぎ立てる子供たちをあやしながらも何度も何度も練習をした。