これまで、鮎釣りを通していろいろな方と出会い様々な経験をした。
最近ふと、自分の人生とも言える鮎釣りに目標を持とうと考えた。
一つ目は、百河川を釣行すること。
二つ目は一日百匹釣ること。
そして三つ目は尺鮎を釣ることだ。
鮎釣りを始めて今日までの釣行河川は52河川。
一日の最高釣果は96匹。
最高長寸は29センチだ。
おかしな話なのだが、心のどこかではいつまでもこの目標は達成できない方がいいのではないか、とも思っている。
達成して終わるよりも目標を追い続けていく。
自分の深部に宿る力を信じながら、やがて知らぬ間にフェードアウトしてくのが自分らしいし幸せなような気がするのだ。
今年、帰郷の際に僕の鮎釣りの原点である徳島の勝浦川に寄ってみた。
指折り数えてみると二十四年ぶりだった。
さすがに川相は変わっていたが、堰堤や大きな石はそのまま残っていた。
あの時鼻カンもろくに通せなかったのに、と僕はオトリ鮎に素早く鼻カンを通して瀬に送り込んだ。
と、いきなりダダンガンガンッ! と強烈なアタリだ。
野鮎に竿をのされて必死で下流に走った。
滑ってつまずいて、尻餅をついて這いつくばったまま竿を立ててずぶ濡れで耐えた。
ものすごい引きだ。
右往左往してやっと取り込んだのは、27,8センチははあろうかというでっぷりした野鮎だった。
真っ青な空に向かってウホォーッと奇声を上げ、川にへちゃりこんだ。
対岸には一面敷き詰めたように黄色なひまわり畑が広がっている。
カブのおじさんが乗り付けて「にいちゃん、釣れとるかい?」と声を上げた。
「今でかいのがきたよ」と返して大きく手を振る。
息切れがし、熱波で景色が茹だって湾曲した。
沸き上がる入道雲を遠望しながらゆっくりと立ち上がる。
いつの間にこんなに歳を取ったのだろう。
人生は胡蝶の夢、とはよく言ったものだ。
僕は、一歩また一歩と足下を確かめるように上流へと進んだ。
清らかな川の流れに身を重ねながら、これからもこうやって生きていくのだろうと。
了