まいどー! 有田川ダム上の柴崎おとり店です(^^)/

和歌山県有田川ダム上にある柴崎おとり店のサイトです。 鮎釣りの遊漁券とオトリ鮎を販売しております。 鮎釣りの皆さんお気軽にお越しください(*‘ω‘ *) 柴崎おとり店 〒643-0601 和歌山県有田川町押手770-2 ☎073-726-0413

    有田川ダム上の水況などetc.


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     家内と次男がティッシュ箱のような紙箱を囲んでいる。

    「あんた、脅かしたりしたらあかんのやで。まだ子供やし、ストレスでお腹壊したり毛が抜けたりするんやから」
    「けへっ、たかがネズミの分際で」
     ボクは晩酌でできあがっていた。

     家内の隙を見て素早く箱に手を伸ばすと、カルタ取りのように手が飛んでくる。
    「こらっ、おっさん」
     家内の罵声が響く。

     家内は私の方を睨むと、一転していたわるように箱を見つめた。
     家内が干し草を掴んで、ほらほらと紙箱の前に置く。

     だが、なかなか出てこない。
     えーい焦れったい。

     箱の中から鷲掴みにして、口のところに干し草をねじだれぇと思ったが、今言うとボクの口にねじ込まれそうなので止めた。

    「きっと、みんなが見てるからや。一人にしておいたら食べるわ」
     家内はリビングからの撤退を全員に命じた。しかたなく、ボクも肉じゃがと缶ビールを持って立ち上がった。
     と変な臭いが。

    「ションベンの臭いやで」
     ボクが言うと、家内が眉間に皺を寄せる

    「確かに、おやじの言うとおり臭いで」
     次男はまた箱の方に向かった。

    「あんたが脅かすからやん」
    「ええ、なんもしてないや~ん」
    「あんたの酒臭い息がかかったんや」
     言いがかりも甚だしい。が、変な臭いはいよいよ強くなった。

    「箱から出して拭くしかないで」
     次男が促す。

    「マーモー、おーよちよち。お尻拭くからねー。ゴメンやでー」
     マーモーときた。もう名前まで付けてやがる。

     家内は、けったいな声を発しながら、箱にごそごそと手を入れた。箱がゴトンゴトンと鳴っては止まり、鳴っては止まりするが、マーモーとやらはなかなか出てこない。さすがに焦れてきたのか、家内の

    「おーよちよち」というけったいな声は、徐々に低く絞り出す様になった。
     あぁ、焦れったいつまみだせっ。
     と、家内がアターッ! と奇声を発した。

    「噛まれたっ、噛まれたわ。優しく噛まれた」
     家内は複雑な顔で右手をかざした。

     その様に、ボクと次男は思わず声を上げて笑った。家内が口を歪めて睨み付ける。


     若い頃はクロコダイルやラコステなど胸にブランドマークのある服をよく着ていた。
     結婚したらどうでもよくなって、スーパーの安売りで買った980円のトレーナーなどになった。

     子育てで目の回るような毎日におしゃれなど気にする暇もなかった。
     髪の毛も鷲の巣のようにまいくりまくっていた。

     ある日、子供がザリガニを飼いたいとせがむので買ってやった。
     小さな水槽に2匹ザリガニを入れて玄関に置いた。

     子供がうれしがってよく割り箸などでつっついていた。主人が刺身を箸でちぎっては子供に渡し、それを子供が水槽に入れるというのが夕食の定番となっていた。
     子供たちの歓声がよく玄関の方から上がっていた。

     その出来事のあった朝も、わたしは子供二人を自転車の前後に乗せて保育所に向かった。いつもどおり保育所の先生が笑顔で子供を迎えてくれる。

     駆け寄ってきて、子供の肩に手を置いてしゃがむ先生。ふとわたしの方に視線が移った瞬間、先生の笑顔がスーッと消えた。視線は、わたしの左胸のところでピタリととまったままだ。

    「あらぁ、それなんですのん?」
     といぶかしげに先生は首をかしげる。やおら鼻先を近づけるなりビッ、ビェ~と悲鳴を上げて尻もちをついた。
     驚いたのはこっちだ。いったい何が起こったのかわからない。

    「な、なんでしょうか」
     わたしは動揺を抑え、落ち着いた表情で訊きかえした。

     先生は「あの、それ」としか答えれない。
     わたしも自分の胸元に視線を落とした。

     ん、なんか変なものがトレーナーの胸ついている。
     手のひらで鼻を押さえて顔をゆがめる先生。

     確かに、ちょっと臭い。
     よく見るとハサミを上げたエビのようだ。

     立体なのでブランドマークではない。
     いやブランドマークの付いたトレーナーなんて持ってない。

    「ははっ、今朝エビ食べたっけなあ」
     とひとり言を言って、わたしはその殻をピンッと指ではじき飛ばした。ら先生、キャアと短い悲鳴をあげて逃げていった。

     なんだったのだろうと、晩に帰宅したらザリガニがいない!

     えっ。まさか・・・。

     現場検証の結果、朝はじき飛ばしたブツはザリガニさまと判明した。
     水槽から割り箸をつたって逃亡したザリガニさまは、子供が廊下に投げ散らかした洗濯物に潜伏した後、洗濯機にかけられ、さらに乾燥機にかけられ、980円トレーナーのブランドマークになったのである。

     哀れザリガニさま。

     その後ザリガニさまのいなくなった水槽には小亀が入れられた。
     主人が笑いながら、今度は小亀のブランドマークがつくかもな、とおどける。

     あらぬ想像は広がるのだが、絶対に小亀のブランドマークはほしくないと思った。



     悲しくなる時がある。

     それは、自分の思っていることを相手に正確に伝えることができないときである。
     そればかりか、全く逆の意として伝えてしまうこともある。

     伝えたい人に伝えたいときだけ、自分の真意を質と量で現せられるのならどんなに楽だろう。心の中からその真意をちょいと取り出して、ほらって見せられたのなら。

     それがもどかしいレベルならまだしも、胸が張り裂けそうなくらい辛くなることもある。

     この前、懐かしい人にあってそう思った。
     いきちがいの多い思春期に、とびっきりの思い出として残っている大切な人に会って。
     
     それはまだ恋などとは呼べないほどの、ほんの小さな道草の萌芽のままで、今もなおわたしの胸の奥に寄り添っている若き日のしるしみたいなものだった。

     まさか30年も経った再会で、あのときと同じ局面になるとは思いもしなかった。
     つまりわたしもその人も変わっていなかったということだろう。未だに袋小路なんて奇跡だよ、って笑いかけたら妙にシリアスな空気が鈍器のように振り下ろされた。

     輪郭しか思い出せない、そんな人から今頃になって残酷なストーリーを突きつけられるなんて覚悟していなかったよ。
     あなたにとってはすっかり過去の思い出話かもしれない。笑いながら話すような内容ではないと、なぜ気が付かないのだろうか。

     不意打ちかい、イヤな思い出ならザッパリ裏切り捨ててほしい! と心の中で叫んだ。自分が理解されないのが、みっともないこととは比較にならないほどつらいもんだと痛んだ今日だけでも。

     笑顔で装った落胆の沈黙に、あなたは何の気配も感じなかったのだろうか。

     確かにマッチいっぽんぐらいの温かさで袋小路から抜け出せるって、曲はあった。
     微睡みもせずラジオにしがみついて、石物のようにそんな曲を聴き続けたこともあった。
     
     ネットで探し出して久しぶりに聴いてみる。
     やはり、みぞおちのあたりに弾きかかるピアノの旋律は、ただ自虐心をあおるだけで悲しい曲だ。

     まるで、わたしのために作った曲。
     恐ろしいほど心の中がリアルに映し出されている。
     
     でも・・・・・・、あの時と何かが違う。
     なんだろう、小さく波打った胸に不思議と素直さが揺れ戻ってくるような感覚は。
     スーっと体が軽くなっていくようだ。 

     マッチいっぽんぐらいでホントにいいのか?
     絶対ムリだと思わない方がいいのか?

     袋小路で出られないのが、つながっていて「いつか」を得られるプロセスだと信じるべきなのか?
     何故か、その方が直ちに最良の方法を模索するよりも自分らしい、とこの曲を聴くうち傾き始めた。

     袋小路もまんざらではない、とね。
     わたしは変わったのだろうか。

     
     久しぶりにあなたに会って。
     わたしは今さら変わっていこうとしているのかもしれない。 

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