十時過ぎに舞は叔母の清子と一緒に宴を引き上げた。
「男しらあに付き合いよったら夜が明けらあね。皆ちっと飲み過ぎながよ」
そう言って清子は坂の折り返しで立ち止まると、まだ騒がしい河原の方に目をやった。
「いかん、月が隠れゆう。どうでもあいた(明日)は雨ながよ」
清子の言葉に舞も足を止めて「水が出るろうかねえ」とポツリと呟いた。
「さあよ、ようけ水が出たらさっき言いよった純太らあの試合もできんなるがよね。それでえいがやないが」
清子はまた歩き始めた。
「清子おばちゃん・・・・・・。あたし、話があるがよ」
舞は今度は振り向いて清子に目を合わせた。
「なんぞね? 舞ちゃん」
「あたし、明後日の試合に純太が勝ったら純太と結婚するがに決めた」
「ど、どいたがぞね急に」
「あたし、純太とのことずっと悩んじょったけんど、あの試合の話が出た時にそれで自分の運命を決めろうと思うたがよ」
「えいがかねあんたあ、そんなことで大事な一生を決めても」
「かまんがよ。幸せになれんかったらそれが私の運命ながやき。あたしも純太のことがわからんがやも」
舞は俯いた。
「純太は働きもんでええ子やけんど、とにかく酒飲みじゃ。酒の苦労は覚悟しちょかないかんがよ。けんど、純太は舞ちゃんのことが好きでたまらんがじゃろがね。人間、好いてくれて大事にしてくれる人と一緒になるがが一番ながぞね」
「それはわかっちゅうがよ」
「純太はお母さんのことがあるきに、この年まで舞ちゃんにに結婚のことをはっきりよう言わんかったがやないがかね。舞ちゃんの方からもっと強引に結婚のことを言うた方がよかったがやなかったろうかねえ」
純太は子供の頃から母子家庭で、成人してからは体の不自由な母の面倒をずっと一人でみていた。
「あたしはそんな事情も純太からはっきりと言うてほしいが。なんぼ訊いても純太は黙ってばっかりながよ。あたしやってもう疲れたわ。それに・・・・・・」
舞は言葉を詰まらせた。
「あたし、自分でどうしてえいかわからんなったがよ」
舞は俯いた顔を横に振った。
「どいたがぞね?」
舞は黙ったままだ。
「おばちゃんにだけながやで、絶対に人に言わんちょってよ」
そう言って舞は清子のそばに身を寄せた。