まいどー! 有田川ダム上の柴崎おとり店です(^^)/

和歌山県有田川ダム上にある柴崎おとり店のサイトです。 鮎釣りの遊漁券とオトリ鮎を販売しております。 鮎釣りの皆さんお気軽にお越しください(*‘ω‘ *) 柴崎おとり店 〒643-0601 和歌山県有田川町押手770-2 ☎073-726-0413

    有田川ダム上の水況などetc.


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    「慎也、お前もそろそろ着替えなあかんで」

    「ああそうやな」

     二人は急いで車に戻った。

     出場選手らが続々と鮎釣り姿になって河原に出てくる。


    「慎也見てみいっ。あれ中村名人やで」

    「うん、その横は津本名人やな」

     慎也も興奮気味だ。

     雑誌でしか見たことのない名人がそこかしこで歓談している。

     大声で冗談を言い合ったり高笑いしたりと、常連者らはいかにも慣れた様子だ。


    「あんな名人がでるんやったら絶対に無理や

     そう言って慎也は苦笑いした。


    「いや勝負はやってみなけりゃわからんで」

     と言う隆人の口元はすぐに閉じて歪んだ。


     受付が始まると予選のくじ引きで慎也は三番目を引き当てた。

     鮎釣り大会はくじ引きで入選順位を決める。

     とにかく釣れる場所に入れなければ勝つことは出来ない。


    「よしっ、オレが吊り橋の上からポイントを見てきてやるから待ってろ」

     言うが早いか隆人は土手を駆け上った。

     二人には仄かな勝機が湧きあがった。

     息を切らせて隆人が戻ってくる。


    「橋の真下の突き出た岩、下手右岸の柳周り、上の左岸の渕尻、下中央のトロの順や」

     隆人は荒がる息を整えると、周りに聞こえぬように慎也の耳元で囁いた。


     くじ順に選手が整列する

     もう笑っているものはいない。


     誰もが出走前の緊張に包まれていた。

     試合開始のラッパが鳴る。


     慌ただしく囮鮎が配布され始めた。

     慎也は曳舟に囮鮎を二匹入れてもらうと下流に駆けだす。

     砂利に足下を掬われながらも必至で走る。


     一番くじと二番くじの選手は上流を目指していた。

     慎也は、隆人に教えられた柳の木の向かいに到達すると素早く竿を伸ばした。


     制限時間は二時間、上位二十五人までが決勝に進む。

     慎也の竿がいきなり曲がった。


    「おーしゃあええぞぉ慎也っ」

     橋の上から隆人の声が飛ぶ。


     見物人の数ももの凄い。

     しかも、全国から応援に駆けつけている。

     中には名人の名前を書いた上りまではためかせている一団もある。


    「あの下の若いの結構釣ってるなあ」

     と、誰かが慎也を指した。


     慎也は順調に釣果を伸ばしていた。

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     馬瀬川に到着したのは夜中の三時だった。

     真っ暗な河原に目を凝らすと沢山の車が止まっていた。


    「すごい車の数やで」

     そう言って、隆人は車から降りた。


    「全部で百人ぐらい参加者がいるって案内には書いてた

    「オレは地区大会でも勝てんのに、例えまぐれで地区大会で勝っても全国大会で百人もいたら絶対勝つのは無理やな」


    「こんなにも鮎釣りに凝ってる人がいるんやな」

     地元では少しばかり名を上げた慎也も臆しているようだった。

     二人は車の中で仮眠を取った。


     夜が明けて参加者達を見た二人は更に気後れした。

     みんな自分たちより上手く見える。


     大きなアウトドア車から取り出す道具も一流のものばかりだ。

     隆人は自分たちが居るのが場違いなような気がしてきた。


    「あっ荒川名人やっ」

     慎也が声を上げた。


     確かに、雑誌でしか見たことのない顔が笑っている。

     二人は荒川名人の方に近づいた。


     荒川名人と言えば、二十年も前に鮎釣り界の神様と呼ばれる鈴木徹斉と「伝説の天竜川決戦」を演じた男だ。


     負けはしたが、その後鈴木が亡くなってから鮎釣り界を支えてきたのは、間違いなく荒川名人だった。


     鈴木の急逝を知った荒川は、栃木から和歌山まで駆けつけて鈴木の棺にすがりついて号泣したという。


     翌年から荒川の釣法一変する。

     自らが主張した引き釣りを捨て鈴木の泳がせ釣りへと転向したのだ。


     関東の取り巻きらから激しい非難を浴びた。

     だが、翌年荒川は泳がせ釣りで全国制覇を果たす。


     荒川に表彰台での笑顔はなく、数日後、和歌山の鈴木の墓前で合掌をしている姿を地元の人が見ている。


     と、鮎釣り姿になった出場選手の数人が、荒川名人のもとに駆け寄った。


     サインをしてもらうようだ。

     ある者は竿に、ある者はしゃがんで背中を向けベストにサインを書いてもらっている。

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     隆人は、母と祖母が話していたことを思い出した。

     大阪から囮鮎を買いに来た常連客の中の誰か


     やはり慎也の父は鮎釣りをしている人なのだ。

     だが、有名になったらわかるとはどういう意味なのか。


     隆人が疑問に思うと慎也が続けた。

    「俺はその時お母ちゃんの言ってる意味がわからなかったけど、後から考えたらつまり俺が親父に似ているってことじゃないのかと思うんだ。しかも俺の親父は鮎釣りをしている人なら誰もが知っている名の知れた人ではないのかと」

     名の知れた人。隆人は息を飲んだ。


    「慎也きっとそうに違いない。お前には天性の素質があるからな

     隆人はハンドルを切りながら早口で言った。


     確かに慎也の鮎釣りは持って生まれた天才的なところがあった。

     自分など常人とは一線を画した天性の素質が備わっている。

     慎也が鮎釣り名人の子であっても不思議はない。


    「とにかく俺は鮎釣りで名を上げたいんや。そしたら自分のなにもかもがわかるような気がするんや」

     慎也は絞り出すような声で言った。


    「お前ならなれる。お前ならやれるわ。絶対間違いなく全国一の鮎釣り師になれるって」

     隆人は雑誌で見た名人の顔を次々思い出してみた。


     だが、高瀬に似ていると思しき名人は思い浮かばなかった

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