小市民のイージーライフ

日常生活の様々な話題を綴るブログですがしばらくは小説を書いてみます。

    「隆人、俺が今でも雅にこだわっているのはそう言う理由だ。つまり俺は姉さんと父親を捜している。その事に整理を付けないと次には進めんのや。いったい自分はなにものなのか、こんな年になってもにもわかっちゃいない。どう整理をつけたらいいのかも何にもわからない。だから自分の目の前に迫ってきたものは全部振り払って前に進むしかないんや

    「そ、そんなこと・・・・・・」


    「想いを寄せた相手が同じ血の通った人間だったなんてもどうしていいかわからんかったんや。でも、俺は馬路で清岡舞に出会って思った。雅に似て中身は全く雅でない。こんな答えがあったのかと。俺は彼女となら一緒になれる。これは神様がくれた最高の贈り物なんや」


    慎也、真紀はどないするんやっ」

    「・・・・・・」

     隆人の虚を突い言葉に慎也は口をつぐんだ。


     隆人は突拍子もない話を聞かされ頭の中が混乱していたが、とにかく舞とのことだけは許せなかった。

     

     同時に、慎也が真紀と一緒になって欲しいと切望している自分にも気がついた。


     慎也を今の状況からどうしても引き戻さないといけない。

     隆人は黙る慎也にたたみかけた。


    「慎也、とにかく今日の試合だけは」

     そこまで言った隆人の言葉を、慎也は声を張り上げて遮った。


    「隆人、俺の閉塞感がわかるかっ! 今日まで自分がいったい何者かもわからずに生きてきた俺の気持ちが。俺の父さんはきっと素晴らしい鮎釣り師に違いない。その息子の俺がどんな試合にも負けるわけにはいかんのや。そして勝ち続けることが俺の正体を明かす道のりにもなる、幸せになれる道のりにもなる。いつか母さんがそう言ってくれたんや。だから俺はどんな試合からも逃げない。受けて立つ。徹底的に相手を叩き潰すんや」

     慎也は辛そうな表情をすると俯いて首を左右に振った。

    050

     土曜日、一転して空は晴れ渡った。


     朝食を済ませると慎也ら一行は島石へと向かう。


     高瀬慎也名人と乾純太の試合を見ようと多くの村人が集まっていた。

     中には噂を聞き付けた遠方からの車もたくさん止まっている。


     老人会は木の陰にゴザを敷いて既にワンカップ酒を呷っている者もいた。

     下流の吊り橋も見物人であふれかえってい


     川の水はほとんど澄んでいたが昨日の増水が引ききっておらず、島石の川相は凶暴さを増していた。

     流されたらひとたまりもないだろう。


     慎也は黒ずくめの鮎釣り姿に身を包むと河原に立った。


     迫り立った山まだ朝日を遮ってい

     一羽のツバメが目にも止まらぬ早さで、怖気立つほど青深い淵を掠め飛んだ


     風はピクリとも動いていない。

     岩頂の雑木から青い葉がヒラリヒラリと一枚舞落ちた。


     上下の荒瀬は朝靄に包まれ、けたたましい轟音だけを岩に染み入らせている。


    「なぁ慎也お前こんな何でもない勝負に勝ってもしかたないやろ」

    「いや、俺には勝つ必要がある」


    「なんでや?」

    「・・・・・・」

     隆人は視線を遠くの山に移す慎也に詰め寄った。


    「お前なぁ、ええかげんにせえよ。ええか、あのウエイトレスの舞という女あれは雅じゃないんやで。全くの別の女や」

     隆人は少し声を荒げた。


    「だから、それはそれでいいんや」

     慎也は宥めるような眼で隆人を見た。


    「な、なんやねんそれ

    「その事は、彼女が雅でないからそれで全てがうまくいくんや」


    「はぁ?」

     隆人は怪訝そうに慎也の顔を見た。


    「雅中身は俺とは一緒になれない中身やったんや

    「中身?」

     隆人は、慎也の言葉の意味がさっぱり解らない。


    「隆人、驚くかもしれんが・・・・・・雅は俺の姉さんだ」

    「えぇっ!」

     隆人は目を剝いてよろけた。


    「つまり俺の親父を知っているはずだ・・・・・・」

     慎也はゆるりと視線を落した。


     隆人は喫驚のあまり開いた口をわなわなと震わせた。


    259


     

    「夜遅うにすまんがです。あたし清岡舞の叔母の南清子いうがです」

    「は、はあ。何か?」


    「言うか言うまいか悩んでるうちにこんな時間になりまして。杉原さんだけに相談があるがです」

    「ええ、何でしょうか?」

     隆人は何度も首を傾げた。

     清子は昨夜舞から聞いた一部始終を隆人に話をした。


    「そ、それほんまですか。まだ、馬路に来て二日目やのに、信じられんわ」

     隆人は大声を出して驚いた。


    「ほんまながです。あたしも舞からその話を聞いて驚いたがです。きっと高瀬さんは、舞のことをその鈴木雅やとかいう人やと思いこんじゅうがやと思いますきに。舞は鈴木雅やいう人とは全くの別人ながです。ただの他人のそら似ながです」

    「あ、あいつ、まさか・・・・・・」


    「とにかく、舞は高瀬さんが勝ったら和歌山に行く言うがです。それを高瀬さんも望んでいるはずだと舞は言い張るがです。けんどなんぼいうたち舞はその鈴木雅いう人とは別人やし、そんな二人が一緒になって幸せになれるわけなんかないがですきに。あたしはこの村で舞を純太と結婚させちゃりたいがです。純太も舞のことを好きながです。あたしは舞に幸せになってほしいがです。杉原さん頼みますきになんとかしてください

     清子は半泣きだ。


    慎也が舞を和歌山に連れて帰えるってぇ

     杉原は眉間に皺を寄せて腕組みした。


    「杉原さん、卑怯かもしれんけど明日の試合でなんとか高瀬さんを負けさせる方法は無いがでしょうか。姪の一生がかかっちゅうがですきに頼みます」

    「・・・・・・・・」

     詰め寄って懇願する清子を前に隆人は返答に窮した。


     宿に戻ってからも隆人はなかなか寝付けない。


     慎也が部屋に戻ってきたのは十時過ぎのことだった

     隆人はどうしていいのか分からず寝たふりをした。

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